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ぷるぷるハートのドリーマー
それは、私と双子の姉がまだ小学校に上がったばかりの頃の話。
我が家は三人姉弟。一番下の弟のみるくんはまだ赤ちゃんだった。離乳食が始まり、簡単なものなら食べられるようになった頃合いである。
「はい、あーん」
お母さんが、みるくんのために作った離乳食を食べさせる。その中身がどんなものかはよくわからなかったが、ニンジンとフルーツを使っているようでオレンジ色をしていて、なんだか甘い匂いがしていた。
彼女がスプーンに乗せた食事を持っていくと、みるくんはおむすび型の口をぽかーんと開けてそれを食べる。そして、ちょっと涎を垂らしながらもぐもぐと食べるのだ。
で、私と姉はというと。
「かんわいいいいいいいいいいいいいいい!」
「かっわいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「萌えるうううううううううううう!」
「みるくん萌えええええええええええええ!」
二人で交互にきゃあきゃあ声を上げる始末。年の離れたこの小さな弟のことが、私達は可愛くて仕方なかったのだった。
ちなみに、我が家の両親は二人揃ってオタクである。我が家は当然のようにオタク用語が飛び交うような家だった。二人は隠したいようだったが、何やら寝室の本棚の奥と、押し入れの奥に、二人の秘密の本がしまってあることを私達はとっくに知っていたのだった。
まあ、オッパイの大きな女の人が腰振りダンスをしている絵とか、目が大きくてキラキラした可愛い男の子が“もっと激しくして”と目をハートにしてイケメンにおねだりしている図が何を意味するのかはさっぱりわかっていなかったが(余談だがそれらを見られていたと数年後にバレた時、両親は二人揃って泡をふいて倒れていた)。
そんなわけで。
あんまり意味はわかっていないが、萌え、と言う言葉が出るくらい珍しくもなんともない家だったわけである。
多分、ものすごく可愛いとか、ものすごく素敵という意味なのだろう。私達はそう解釈して使っていた。
「う」
まだみるくんは小さいので、言葉はほとんど話せない。時々うー、とかあーとか言うくらい。男の子だから余計、喋り始めるのは遅いだろうとは聞いていた。
ついでに表情もあまり変わらないタイプ。なので、楽しいとか悲しいとかを把握するのはなかなか難しかったのだが、一つだけ。
「ぶー!」
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
ぷるぷるぷるぷる、と体を震わせるみるくん。
それが、彼が“ごはんが美味しかった時”や“嬉しかった時”に出る仕草だということを、私達は既に知っていた。
「出ましたぶるぶる!推しのぶるぶる、トートイです!」
「トートイですう!」
「あははははははは……」
両親がいつも使ってる言葉を使ってほめたたえる私達を見、母は苦笑していたのだった。
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