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下校中の高校生
明日は期末試験の初日、英語と数学だ。早く帰って勉強しようと思って、自転車を飛ばしていた。交通量の少ない交差点は、信号無視して渡った。前をのろのろ走っているオバアチャンの自転車を、シャーっと追い越して先を急いだ。背後で、キューッとブレーキの音がしたが、かまわずに走った。その時、制服の胸ポケットがゴソゴソと動いた。
「ここは止まって、『オバアチャン大丈夫?』とかなんとか、言うべきだろ!」
ポケットの中から、何者かが言った。誰だ、お前は?!と思いつつ、その声も無視して自転車のスピードを上げた。住宅街に入る角をそのままの速度で左折した。すると、制服のポケットがモゾッと動いた。
「車が走ってきていたら、アウトだったじゃないか!」
うるさい奴だな!と思った。車は来ていなかったのだからセーフだ。家に向かう下り坂を、ブレーキをかけずに駆け下った。ここまで全力で漕いできたので、全身で受ける風が心地よかった。また、制服のポケットがムズムズしだした。
「歩行者が出てきたら、轢いてしまうぞ!」
こんな昼間に出歩く歩行者は少ないんだよ!と思いつつ、家に近づいたのでブレーキをかけた。門の前でピタリと止まり、自転車をヒョイと持ち上げて玄関前に置き、鍵を開けて家に上がった。ここでも、制服のポケットがうねった。
「また親にガミガミ言われるぞ!自転車は倉庫にしまえって!」
わかってるし!と心で叫び、制服のポケットの声は聞かなかったことにした。部屋に入って、制服を脱ごうとした。袖から腕を引き抜く時も、制服のポケットがガサガサした。
「手洗い、うがい!汗かいて冷えたら、風邪ひくぜ!」
なんだ?このメンドクサイ声は!と思い、制服の胸ポケットを覗いてみた。ドラッグストアで渡されたチラシが、クチャクチャに折れて入っているだけだった。それを引っ張り出して、机に放りだした。スウェットに着替えて、カバンから参考書を取り出し、机に向かった。数学の問題を解きはじめたところで、参考書の下から声がした。
「今からやったって、成績を上げられるとは思えねぇな!」
参考書を持ち上げてみると、さっきポケットから出したチラシがあった。やっぱり、オマエかよ!と口に出して言い、ゴミ箱に投げ入れた。それから声は聞こえなくなり、その日は夜中の3時まで勉強して寝た。
翌朝7時に起きようとしたが、なんだか体が重かった。フゥーッと深呼吸をしたら、喉に違和感があった。体温を測ってみると38℃あった。すると、ゴミ箱から声が聞こえてきた。
「昨日、言ったとおりだろ!自業自得さ!」
嘲り笑うような声にイラっとした。昨日ごみ箱に捨てたチラシを破ってやろうと拾い上げ、しわを伸ばして広げた。すると、そこには、正論を振りかざして辛口コメントをするテレビ・バラエティー番組の有名MCが、眉間にしわを寄せ、こちらを指さして睨みつけていた。
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