夕刻のこと2

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

夕刻のこと2

その声が聞こえると、ようやく悪臭が消えた。 が、まだ体からは臭いがなくなっていない。 触るとべちゃくちゃするし、ねっとりとする感触。 気持ちが悪かった。 『ねえ、いい加減こっちを見てよ』 男はハッと息をのみ、恐る恐る顔をあげると。 まず見えたというよりも、再びあの悪臭に襲われた。 その発生源は、男の背丈よりも大きい舌からだった。 臭いの正体は唾、体をなめられていたのだ。 その次に見えたのは。 舌をしまう場所、唇。 形は人と同じではある。しかし違う所がある。 最後に見えたのは、顔。 これも人と同様ではある。しかし違う所がある。 そう、大きさであった。 それは男の背丈よりも大きかった。 近くに生えている木と同じくらい。 さらには人にあるはずの手と足がない。 顔だけ、顔のみの生き物。 人はおろか、そんなもの動物にだっていない。 考えられるとしたらたった1つ。 たった1つしか思いつかない。 人々は恐怖を込めてこう呼ぶ。 「よ、妖怪だあーーーーー!」 男は大きな声をあげ、妖怪と呼ぶモノとは逆の方角へと逆走する。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!