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夕刻のこと2
その声が聞こえると、ようやく悪臭が消えた。
が、まだ体からは臭いがなくなっていない。
触るとべちゃくちゃするし、ねっとりとする感触。
気持ちが悪かった。
『ねえ、いい加減こっちを見てよ』
男はハッと息をのみ、恐る恐る顔をあげると。
まず見えたというよりも、再びあの悪臭に襲われた。
その発生源は、男の背丈よりも大きい舌からだった。
臭いの正体は唾、体をなめられていたのだ。
その次に見えたのは。
舌をしまう場所、唇。
形は人と同じではある。しかし違う所がある。
最後に見えたのは、顔。
これも人と同様ではある。しかし違う所がある。
そう、大きさであった。
それは男の背丈よりも大きかった。
近くに生えている木と同じくらい。
さらには人にあるはずの手と足がない。
顔だけ、顔のみの生き物。
人はおろか、そんなもの動物にだっていない。
考えられるとしたらたった1つ。
たった1つしか思いつかない。
人々は恐怖を込めてこう呼ぶ。
「よ、妖怪だあーーーーー!」
男は大きな声をあげ、妖怪と呼ぶモノとは逆の方角へと逆走する。
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