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第5話 路地裏にて②
「や、やだなあ真希。どうしたの?」
苦笑いを浮かべる若葉に、真希が微笑み返すことはなかった。
「ど、ドッキリってやつだよね?こんな人員集めて私を騙そうだなんて、手が込んだことするね」
「……」
「そろそろ種明かししてくことれてもいいんだよ?ねぇ、ねぇったら」
遂には真希が、『ドッキリ』という赤文字の看板を出すことはなく、代わりに拳銃の引き金に指をかけた。
「ち、ちょっと真希──うぐっ!?」
背後から数人の男に両腕を掴まれ、口を塞がれる。
「ひゃ、ひやめへほ……なんへ……?」
真希はスマートフォンの画面を見せる。そこにはマップと、若葉の立つ位置が記されていた。
「昨日、あなたのスーツに発信機をつけさせてもらったわ。あなたと王野の会話もしっかり残っているわ」
「ほ、ほうひへ……」
「アンドロイドの機密資料、王野が持っていたなんてね。それが、今度はあなたに行き渡った。今度こそ手に入れてみせるわ」
「なんれ……ひょんな……」
真希は「まだ分からないのね」とため息をつき、
「若葉でも分かるように、教えてあげる──」
真希はつかつかと若葉の眼前にまで近付くと、にやりと口元を吊り上げた。
「──ネクサクオンタムの会社員、それは仮の姿」
彼女の目が、狡猾な獣の如く光った。
それは、若葉のいつも見ている彼女の微笑みなどとは程遠い。
同じ顔をした、ドッペルゲンガーのように思えた。
そうであってほしかった。
「私の本当の姿は、神龍テクノロジーズからあんたのところの情報を奪いにやってきたスパイよ」
神龍テクノロジーズ──中国のテック企業のひとつ。
競合相手のネクサクオンタムから、度々その技術力を求めて交渉にやってきたり、断られては無理やり強奪を図ったりと、悪質な組織。
「佐藤真希も、仮の名前。本当の名前は李梅(リー・メイ)」
偽名まで使っていた。
日本人ですらなかった。
それが、若葉とのこれまでの交友は全て嘘だったことを証明させるのには、十分すぎた。
「そ、そんな──」
「あなたに近づいたのも、全て王野の持つ情報を手に入れることが目的だったの。あなたが馬鹿な子で、本当に良かった」
真希──もとい李梅は若葉の胸元に手を伸ばす。
「对不起(失礼)」
「あっ、ちょっと──なに、するんですか……っ!」
ごそごそと、若葉の上着ポケットを探る。
「や、やめてくださいっ」
「やっぱりポケットだったのね。なんとまあ安直だこと」
黒いUSBを取り出した李梅はにちゃりと笑う。①と書かれていることから、あの時の音声で聞いた通り。王野が彼女に渡したものに違いなかった。
「それは王野さんから預かった……か、返してくださいっ!」
「王野もバカねぇ、こんな大事なものを、無能な社員に預けるんだから」
若葉から奪い取ったUSBを、胸ポケットに入れる。
「さて、私は佐藤真希としての役目を終えたし、あなたも用済み。悪いけど、消えてもらうわ」
かちり──拳銃の安全装置を外す音が鳴る。李梅の銃口は、まっすぐ若葉の額を捉えた。
「や、やだっ!せめて、せめて命だけでも──」
「そうはいかないわ。不安要素は全て消し去るのが、神龍のやり方よ」
細い指先が、引き金に絡まる。そして──
──ばんっ!
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