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それまでは存在すら知らなかった。目に映ることもなかった人。だが知ってしまった今、やけに波璃のことが視界にクリアに映ってしまう詩乃也。
度々見かけるが、やはりいつ見ても波璃は1人で行動しており、自分で言っていた通りこの学校に親しい友人というものは居ないようだ。
一一一マジであいつずっと1人じゃん。幼なじみがいるとか言ってたけど、学校違うのか?周りに一目置かれてるにしても、置かれすぎだろ。
そして昼休み。チャイムと同時に教室を飛び出した詩乃也は、階段を駆け下りて2年生の階までやってきた。詩乃也を見て怯える後輩達をスルーし、教室を覗いていく。
「何組って言ってたっけな…忘れた、いねーじゃん。クソ…」
一一一いや、俺はあいつ探して何するつもりなんだよ。よく分かんねー。
「はぁー、腹減った…あっ!!」
気だるげに独り言を呟いた時。向かいの窓に波璃らしき男子生徒が階段を降りていくのが見えた。
詩乃也は走り出して、急いでその人物を追っていく。
「はぁはぁ…、いたいた。お前こんなとこで何してんだよ」
追ってたどり着いたのは体育館裏だった。そこにはポツンと1人で階段に座り込む波璃の姿が。突然現れた詩乃也に驚いて目を丸くしている。
「え、なんで詩乃也くんがここに…」
「はぁ!?なんでって…お前追いかけてきて…、え、なんでだ」
「え?追いかけて?」
「うわー!!!なんで俺はこんな所に!?」
「そ、それは僕が聞きたいです」
どうやら無意識のうちに波璃を探して追ってきたらしい。頭を抱えて自問自答するが詩乃也はパニックで相手から見たら完全に不審者だ。
「いやっなっ…なんとなくだよ!!お前見つけたからどこ行くのかただ興味で…」
「僕のこと気にしてくれてたんですか?」
「気にしてねーよ!!腹減っただけだよ!」
しかも支離滅裂だが、そんな詩乃也を見て波璃はクスッと口角を上げた。
一一一笑いやがった。なんだその笑い方。女子みてーだな。
ちょこんと3角座りをしている波璃の膝には造りのいい光沢のある黒い弁当箱が。その中身は店で買ったのかと思うほどの彩り豊かな食べ物がギッシリと詰まっている。
「え、なに。お前弁当なの?」
「はい。お手伝いさんが作ってくれるので」
「おっ、お手伝いさん!?なんじゃそら」
「一緒に食べませんか?隣座ってください」
「いや俺はコンビニパンあるっつーの!」
「コンビニ…パン?」
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