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一一一こいつ、なに淡々と知ったような口で…。その余裕ぶりがムカつくんだよ。
「…ふーん。そう思ってんなら試すか?」
「え…」
「俺が本当に何もしないとでも?」
詩乃也は勢いよく波璃の胸ぐらを掴み上げ、自分の方へ引き寄せた。
間近にある波璃の顔は、改めて見ても色素が薄く整っている。威勢よく掴んだものの、波璃の言う通り自分から人を殴ったことがない詩乃也は当たり前に躊躇した。
「…ほら、やらないじゃないですか」
「……っ黙れよ」
「噂は噂ですよ。みんな詩乃也くんと接して知ったわけじゃない」
「黙れっつってんだよ!」
「僕は、詩乃也くんと話してみてそう思ったんです。最初から感情をさらけ出してきて、怒りも戸惑いも、嬉しそうなのも全部ぶつける人だなって。だからみんなが思うような面も、裏表もきっとないって思ったんですよ」
「…んだよ、それ」
一一一親族とその周りの大人は、俺のことを可哀想、気の毒だと言う。俺の周りの奴らは基本俺を恐れるか、敵意を向けるか、目を逸らす。
一一一なのに、そんな真っ直ぐ曇りのない目で俺を見るな。敵意も軽蔑も恐れもない目。誰にも言われたことないことを、いとも簡単に言うな。
「お前、ほんと腹立つな。すました顔しやがって」
「あー、もうそんな強く掴んだら襟がしわくちゃになっちゃいます」
「知るか」
「怒ってますか?」
「うっせーな」
襟元を離した詩乃也はまた波璃から距離を取り、元の位置へと座り込んだ。波璃は乱れたシャツとネクタイを払いながら整える。
一一一腹立つ理由…こいつが何考えてるのか分かんねーし、何もかも見透かされてる気がするからだ。出会ったばっかのくせに…。
「…お前、軽々しく殴られてもいいとか言うのやめろよ。うぜーし、相手がその辺のヤンキーならとっくにボコされてるぞ」
「ああ…、誰にでも言うわけじゃないですよ」
「は?俺だから、とでも言うのか?」
「まあ、そうです」
「意味わかんねー。会ったのも話したのも昨日が初めてだろ。そこでなんで俺ならいいってなるんだよ」
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