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はーっとため息をつきながら、少し意気消沈した詩乃也はペットボトルを一気に煽る。大雑把な飲み方のせいで、また口元に少し零したコーラを鬱陶しそうに拭った。
「…僕、今まで家のこともあって、友達とか恋人とかいなかったんです。金持ちだからってみんな距離を置くか、懐に入って恩恵を受けようとするかで。僕に向けられるものは、妬みか卑しい視線か…作り物みたいな笑顔。それに嘘っぽい賞賛でした」
波璃もまた、息を多めに吐きながらぽつりと言葉を零した。詩乃也は眉をしかめながらも、その酷く落ち着いた声に耳を傾けてしまう。
「だから…出会った時から、感情むき出しで僕に接してきた詩乃也くんを見て…あ、この人はちゃんと僕を見て僕に怒って、僕の言葉を聞いてくれるんだってびっくりしました。この人にだったら幼なじみにさえ言えなかった悩みも、父親のことも話してしまいたいって…思ったんです」
「…一言二言話しただけで?そんなん、あの時キレてきたら俺じゃなくてもいいんじゃねーか」
「いや…詩乃也くんがどれだけ怖がらせてきても、この人本当はそんなに怖い人じゃないって分かりました。たぶん根は優しい人なんだろうなって。誰でもいい訳じゃなかったです。あの時ゴミ箱にハマってたのが詩乃也くんだったから。だから咄嗟に家にまで連れて行ったんだと思います」
「…はぁ?」
「それに噂通りの人だったら、わざわざ僕を探してたり今もメロンパンを分けてくれたりしないですよ」
「別に探してたわけじゃねーし!!メロンパンも食わずに死ぬとか勿体ねーから分けただけだ!!勘違いすんなよ!」
誰が聞いてもかなり無理やりな理由だ。でも波璃はそれを本気でイけると思って言っている詩乃也を見て、ほろっと笑みを浮かべた。
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