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「はぁ…お前ほんと変わりもんだな。俺のどこをどう見て優しいとか言えんだよ。大体この目付きの悪さだぞ」
「え…。詩乃也くんの目は、キリッとしてても今まで見たどの人より光があって真っ直ぐでした。だから、見つけたのはたまたまだけど目が離せなかった」
「…っバカじゃねーの!?なに小っ恥ずかしいことをサラッと言ってんだよ!」
「だって本当のことです。だから…昨日会ったばかりの時殴られていいって言ったのは、ちょっと投げやりな部分もあったけど…。今は違います。詩乃也くんだったら、この人にだったら痛みを与えられてもいいって思えた」
話しながら少しずつ詩乃也が感じた違和感。じりじり、じりじりと波璃との距離が縮まっている。
さっきまで空いていた2人の空間は、ほんの数ミリ程度の隙間に変わっていた。
「なっ、お前…、なに」
「僕を見るみんなの目は、お面みたいなんです。僕を見てるようで、見てない。見てるのは成績や肩書きや将来だけ。だけど詩乃也くんは違う」
「近ぇんだよ!離れろ…」
「ここまで言っても、伝わらないですか?」
「うるせっ…離れ…」
言葉とは裏腹に、詩乃也は迫り来る波璃の唇を避けることができなかった。体が動かなかった。
「僕、詩乃也くんがいいんですよ」
階段の隅に、壁に追い込まれた詩乃也は波璃に唇を重ねられ、されるがまま角度を変えられる。
「んっ…、!」
一一一こいつ!!また…!なんで今キスすんだよ!!
喧嘩三昧で体格もいい詩乃也が、細身の波璃に力負けするなんて有り得ないこと。突き飛ばせないのは自分の意思で、抵抗できないのも恐怖や嫌悪からではない。
脳が溶けそうな、寝起きのようなぼんやりとした初めての感覚になる波璃のキスに飲み込まれているせいだ。
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