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波璃は虚しく笑うと、また唇を近付けようと顔を傾けた。
「これも、親の言いなりか?」
「……え、」
「俺を拾ったのも、俺に付き合えって言ったのも、こうやってキスしてくんのも。言われたからやってんの?」
「…違いますよ」
「じゃあ人形じゃねーだろ。ゲイのこと話そうとしてんのも、婚約者阻止しようとしてんのもお前が決めたことだろ。ちゃんと自分の意志あんじゃねーか」
「…っ詩乃也くん」
「い!いや!ていうか、キスはやめろ!!何回すんだよ!ぶん殴るぞ!!」
顔を真っ赤にさせながら慌てて暴言を吐く詩乃也を見て、波璃は嬉しそうに、でも泣きそうに笑う。
「…さっき、僕が何考えてるか分かんないって言いましたよね」
「あ?それがなんだよ」
「僕、知らないうちに自分の意思で行動できてたんだ…きっと詩乃也くんと出会ったからだと思うんです。詩乃也くんといたら、感情表現ももっとできそうな気がします」
「な、なんだそれ…」
「それに、今は割と分かりやすいと思いませんか?」
壁に手をついて至近距離に来た波璃は、昨晩のような獲物を狙う目付きをしていた。それに気付き、ごくっと唾を飲む詩乃也。
あれほどに荒れ果てて恐れられている不良が、波璃の前では捕食寸前の小動物のようだ。
「…お、い、近っ…」
「今、詩乃也くんに欲情してますよ。僕」
「はっ!!?」
「ねぇ、半年の間…付き合ってくれますよね?」
「…っおい、離せ、む」
そして、また口付けられた唇。頬に手を添えられながら優しく触れたと思ったら、何度も小鳥がついばむように繰り返される。
詩乃也から熱い息が漏れた瞬間、またペロッと唇を舐め、2人の舌が混ざり合った。
「んんっ…、お、い」
「ん、は…っ、ねぇ…」
「待っ…!ぁ、ん…っ、波璃っ!!」
「え…」
そう叫んだ瞬間、波璃はピタッと動きを止めて肩を掴んだ。詩乃也を見つめながら目を大きくして驚いている。
「んだよ…!」
「名前、呼んでくれましたね」
「…っべ、別に!!!」
「もっと呼んで、詩乃也くん…」
「だっ、誰が呼ぶか…っ!」
心底嬉しそうにニヤッと口角を上げた後、波璃は詩乃也の腰を抱き寄せ、キスをした。
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