1. 出会いはゴミ箱

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一一一俺とこいつが付き合う?イカれてんのか。 「なんでそうなるんだよ!!バカにしてんのかテメェ!」 波璃の胸ぐらを掴んだ詩乃也は、鋭く睨みながらギリギリと手に力を入れる。今まで対峙してきた男達は、この時点で殺す勢いの尖った目線を送り返してくるか、恐怖で怯むかどちらかだった。 だが、波璃はどちらでもない。 「……っ」 一一一なんだよ、その目。真っ直ぐ俺から逸らさずに感情が抜け落ちたみたいな。 「バカにしてません。本気で言ってます」 そして薄い唇を開いて静かに呟いた。その声は決して低くはなく、中低音を感じる。その視線と芯の通った声から本当にふざけていないようだ。 「…本気で言ってんならお前がバカだな。俺は男だぞ?」 「それが何ですか?そもそも男じゃないとダメなんです」 「は…?何、お前ゲイなの?」 「まあ…そんなとこです」 詩乃也は掴んでいた手を離し「へぇ」と企みを含んだ笑みを見せる。 一一一こんな金持ちの綺麗な顔した奴がゲイ?家にまで連れてきて何言い出すかと思ったら…、俺と恋人になる?本気で? 一一一俺が馬鹿な問題児だと思って、からかってんのか?いいとこ育ちで退屈だから金持ちの暇つぶし的な? 「なんで付き合ってほしいんだよ」 「それは…両親に紹介したいからです」 「ぶっ!!!展開早えわ!高校生の付き合いでいきなり両親に紹介ってなんだよ!」 「……別に、嘘でいいです。気持ちなんて無くても、僕が男と付き合っているっていう事実があれば」 詩乃也は怒りを通り越して、こいつを理解できないといった呆れた顔で頭を搔く。さっきまで得体の知れない奴だと思って警戒していたが、もはやここまでくると興味さえ湧いてきたようだ。 「ますます意味分かんねーんだけど。金持ちの事情ってやつ?」 「まあ、はい…。僕はこの家の一人息子なので、産まれた時から強制的に会社の跡を継ぐことは決まってるんですけど、父が早い段階でもう許嫁を当てがおうとしてきて…」 「はぁ!??」 「要は、力のある社長令嬢を早めに婚約者にしておけば将来も安泰だし、会社同士の繋がりもできる。安心して子孫も残すことができて代々継がせられるからだそうです。それに他所の女にうつつを抜かすことなく勉学に励めるだろうと」 一一一許嫁って…今時そんなのあるのかよ。しかも親に強制的に決められるとか、何時代だよ。しょっちゅう違う女抱きまくってる俺には分かんねー世界。 「へぇー、それで?」 「それで…会社は継ぐ気ありますが、結婚はしたくないし婚約者も欲しくないから…でも父は気難しい人で口で話してもきっと信じてくれないし分かってもらえない。だから実際に見せた方がいいと思って」 「男と付き合ってるとこ見せて、女とは結婚したくないし子孫も残す気ありませんって言いたいってか?」 「…まあ、はい」 一一一何それ。なんか面白そうなんですけど。毎日不良と喧嘩ばっかだったし、今までに会ったことないタイプだわ。 「てかなんで、よりによって俺なんだよ。付き合うフリだけならもっとマシな奴に頼めるだろ」 「あ、僕友達とかいないので…唯一の幼なじみは親公認の彼女がいますし、こんなこと頼める人が周りにいなくて…」 「それでタイミングよく落ちてた俺を拾ったってわけかよ。交換条件飲ませるために」 「そうですね」 一一一悪気なく即答かよ。確かに友達いなさそー。 「てか仮に俺と付き合ってるとこ見せたとして、そんな頑固な親父があっさり諦めてくれると思ってんの?逆上させるだけじゃね?」 「…怒って僕を追い出すとかはないと思います。跡取りいなくなって困るのは父なんで。奇跡的に分かってもらえるかもしれないし…でもそれで逆上して結婚の話を進められるようなら…その時は諦めます」 波璃は立ったまま少し俯いて自分の手をギュッと握りしめた。口では諦めると言っても、相当嫌なんだろうということが伝わってくる。 一一一ダメだったら諦めるんかよ。そんなに嫌そうなのに?俺を拾ってここまでしといて?金持ちの考えることは分かんねー。 「ふーん。じゃあお前本当にゲイなんだ?」 「そうですよ」 「なら、今俺にキスできるの?」 「え……」 「まあ口ではそう言っても、本当かどうかなんて分かんねーし?もし嘘なら金持ちの暇つぶしに付き合うなんてごめんだからな。補導でも何でもされてやるよ」 一一一面白そうではあるけど、嘘みたいな話だ。桁違いの家住んでる金持ちの息子がゲイで、許嫁を決められるのが嫌だ?じゃあ証明してもらおうか。 「お前が男イケるなら、キスも余裕だろ?軽くじゃなくて濃厚なやつな?それができたら今の話本当だって認めて付き合ってやるよ」 「…でも」 「できねーの?できねーなら証明にならねぇし、この話は無しってことで俺は帰るわ。今日のことサツやセンコーにチクるなりなんなりすれば?」 一一一本当は補導も生活指導にまた説教くらうのもごめんだけど。騙されてまで金持ちの遊びに付き合うのはもっとごめんだし。 「……っ」 じりじりと波璃の近距離まで近付いて、煽るような目線を送る詩乃也。波璃は俯いたまま戸惑っているかのような表情を浮かべる。 一一一ほら見ろ。さっきまで無表情だったくせに急に分かりやすく動揺しやがって。やっぱゲイってのは嘘だろ。聞き入ってたけど、今の話もよく出来た作り話だったのかもな。 「無理ならいーわ。じゃあ帰る」 「……っ待って、ください」 「あー?」 「本当に、いいんですか?」 「…何がだよ」 「キス…してもいいんですね?」 「え、、」
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