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一一一なんで足に力入らないんだよ…!今まで数々の女を抱いてきた俺だぞ!?ちょっとディープしたくらいでこんな…!
「あの、大丈夫ですか?」
「はぁ!?大丈夫に決まってんだろ!?勘違いすんな!」
「え?勘違いって何を…」
「…っな!何でもねぇ!」
ベッドに座り込んだまま詩乃也は手で口元を覆った。激しく鳴る心音と反応してしまった体を落ち着かせるために黙って俯く。
一一一いやマジで有り得ねぇ。なんだ今の…。相手は男だぞ?なのに反応するとかどうなってんだよ。てか、別に何気コイツがキス上手いとか思ってねーし!勘違いすんなよ。
「これで証明になりましたよね?僕が本当にゲイだって」
「…チッ、分かってるっつーの!」
「じゃあ、さっきの話信じて付き合ってくれますよね?」
「……形だけだからな!!!あとお前の事情が解決したら関係は速攻で終わりだ!!」
詩乃也が力任せにそう言うと、波璃は未だ座ったままの詩乃也の足元にしゃがみ込み片膝をついた。そしてその手を両手で握りしめる。
「なっ…」
その様子は、まるで姫の前で跪き愛を示す王子のようだ。一瞬ガラにもなくそんなことを考えてしまった詩乃也は握られた手を引くが、力強くまた握りしめられてしまった。
「…日内さん、ありがとうございます。本当に」
「なんなんだよ!離せ!」
「すごく嬉しいです…」
跪いたまま顔を上げた波漓の表情は、キラキラとした無邪気な笑顔だった。さっきまでの無表情や殴られてもいいと言った時の投げやりな表情とは大違いだ。
一一一なにコイツ…こんな顔できるんじゃん。いやいや、俺はなにほだされてんだよ。面白そうとは思ったけど、よく考えたら割と面倒なこと引き受けたっつーのに。
「はぁ…、ほんと意味分かんねーわ。お前」
「お前じゃなくて、名前で呼んでくれませんか?」
「あ!?」
「波漓って呼んでください。僕の方が年下だし、呼び捨てで」
「誰が呼ぶかよ!!」
「じゃあ僕も詩乃也くんって呼んでいいですか?」
「言い訳ねーだろ!!話聞いてんのか!勝手に呼び方決めてんじゃねーよ」
一一一でも、バックレようと思えばいくらでも出来た。逃げるタイミングはあったし、むしろ家に連れてこられた時に逃げ出せばよかった。
一一一それができなかったのは…なんでだ?
「こっち来てください」
「は!?お、おい!」
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