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噂を拾う者
「ひとは恐怖に名前を付ける。形を与えたがる。だって、正体が分からないものは怖いから」
傾けた傘の下から、青年の柔和な顔がのぞいた。
蛇の目を叩く雨音と、優しげな声がテンポ良く響く。
「ひとの恐怖は怪異を生む」
「恐怖は伝染し、噂になる」
「噂は怪異を一人歩きさせる」
黙って耳を傾けていた男子高校生は、小さく嘆息した。
「簡潔にお願いします」
青年が笑顔を深め、傘の下に彼を手招く。
「噂がね、また新しい怪異を連れてきましたよ。行きましょう、ナオくん」
ナオ……学生服の襟元まで正しく留めた少年は、読んでいた本を閉じて、蛇の目で遮られた異界へと踏み込んだ。
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