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踊らされる
開かれた扉の中は、もぬけの殻。
忌まわしい引き攣れた音も鳴り止んだ。
刹那、ランドリー内の照明が全て落ちた。
轟々と運転していた洗濯槽も、甘やかな香りを漂わせながら回っていた乾燥ドラムも、すべてがぴたりと時を止める。
駐車場のヘッドライトと外灯が、歪な影を店内に落とし、ナオの足元をゆらりと這った。
カラカラカラ……──と、乾いた音が転がる。
衣類を畳むために並べられた幅広のテーブルの下から、キャスターを鳴らして顔を出したのは、ランドリーワゴンだ。
じわじわと、二人に忍び寄るように現れた籠の中には、シーツが一枚きり入っていた。利用者の忘れ物か。それにしては不自然に、空気を孕んだように小山を築いている。まるで、ひと一人……そこに隠れているように。
「おやおや。ご期待が高まっているようで」
あそこにいそう。ここにいそう。
そんな思いが、怪異をふらふら隠れん坊させている。
「ナオくん、かつてこんなにサービス精神旺盛な怪異がいましたか」
「いいからさっさと出してください」
ナオにせっつかれ、カナタはシーツを臆せず剥ぐ。
しかしそこにもまた、何の姿もない。
「おや、ここにもいない。こういう時は、いたら嫌だなあって所にいるんですよね。ナオくんなら、何処? 後ろ? それとも天井?」
「なんか、楽しんでませんか。性格悪っ……」
空のワゴンを、ナオはテーブルの下に転がす。
何かにぶつかる感触がして、押し込もうとした手にヒリヒリと嫌な電気が走った。
テーブルの奥行きにはまだ余裕がある、脚にぶつかったわけではない。なら、奥に入ったワゴンか。いや、向かいのテーブルからワゴンは頭を出していない。
なら、この下に何がある……いや、何がいる──?
ナオは腰を屈め、テーブルの下を覗き込んだ。
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