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第308話 囚われの姫
「い、一体なんなんだ」
「どうしたの?何か叫んでいたようだけど」
「ああ………………どうやら、奴らが獣人族領へと足を踏み入れたらしい」
「随分と予想よりも早いわね。一体何を使って来たのかしら」
「それが馬車や魔法は使ってないらしい。純粋な"走り"だけでやって来たようだ。一体どんな脚力と持久力をしているんだか」
「何それ」
「いや、そんなのはもほやどうでもいいんだよ。なんせ、その後の報告の方がとんでもなかったんだからな」
「どうしたの?」
「いいか?心して聞けよ?それから、これ以上の大声は流石にまずいから冷静にな」
「あなたには言われたくないけど……………まぁ、いいわ。で、何?」
片目に黒い眼帯をつけ、片耳が千切れた獣人族の男は意を決してこう言った。
「どうやら、奴らは………………たった3人でやってきたらしい」
―――――――――――――――――――――
「次から次へと本当にしつこい奴らだな。一体何人いるんだ?」
獣人族領へと入り、少し進んだところで早くも敵の歓迎を受けたシンヤ達。最初は走りながら対処していたのだが、あることを訊こうと立ち止まって敵を尋問していた。
「ティア、サラ。どうだった?」
「ちゃんと吐いてくれましたよ。いや〜素直で助かりました。ありがとうございます」
「じ、じゃあ俺の命は…………」
「見逃す訳ないでしょう?」
「ひ、ひいぃ〜!?や、やめて…………ぐわああああっ!?」
「全く、ティアは手荒ですわね………………あ、こっちも聞けましたわ」
「そうか。じゃあ、そいつはもう用済みだな」
「ええ……………あ、ご苦労でしたわ」
「じ、じゃあ俺の命は…………」
「あなた達、同じことしか言えませんの?この状況で助かる訳ないでしょう?」
「ひ、ひいぃ〜!?」
「諦めてお仲間のところにおゆきなさい」
「や、やめ………………ぎやあああっ!?」
ティア達が尋問を完了したことが分かったシンヤは今度は自分の番だと目の前の男へ刀を向けた。
「さて………………では吐いてもらおうか」
「な、何をでしょうか?」
男の質問に対してシンヤは淡々と答えた。
「アジトの場所に決まってんだろ」
―――――――――――――――――――――
「ううっ……………父ちゃん、ごめん」
「謝る必要はない。お前は一切悪くないのだ」
城の地下にある檻の中。罪を犯した者が収容されるその場所にウィア達は幽閉されていた。ウィアを人質に取り、攻めてきた"闇獣の血"はまず騎士団や侍従達などの城にいる者達を全て檻の中へと幽閉した。その後、ウィアを連れて堂々と王の間に侵入した彼らは護衛のいなくなった王すらもウィアと共に同じ檻の中へと閉じ込めたのだった。
「それにしても本当に成長したな。随分と立派になったもんだ」
「アタイは全然立派なんかじゃない」
「いいや。顔つきが強者のそれになっておる。まぁ、その分苦労も絶えなかっただろうが」
「……………そうだな。こんなアタイが今では軍団の長だ。信じられないよな。あの"お転婆姫"と言われ、散々みんなを振り回してきたアタイがだ」
「……………噂には聞いている。奴のクランが自然消滅した後、お前は1人で一から冒険者活動を始め、様々な試練を乗り越えて今の地位にいると」
「…………………」
「ウィア、長い間よく頑張ったな。お疲れさん」
「父ちゃん…………」
「いや、すまん。今の言い方だとまるでお前が軍団を抜けてしまうみたいで縁起が悪いな」
「………………いや、それもありかもしれない」
「それはどういう意味だ?」
「アタイは今回、みんなに迷惑をかけた。あるパーティーの帰り道、アタイはハーメルンと2人で帰っていた。そこでいきなり奴らに襲われたんだ。もちろん、応戦しようとした。だが、アタイは軍団のみんなを人質に取られ、動くことができなかった。その隙に無様にも捕らえられ、アタイを守ろうとしたハーメルンは重傷を負ってしまった」
「………………」
「こんなアタイのどこがリーダーにふさわしいのさ……………いや、リーダーでなくともそもそもアタイは組織に属するのに向いていないのかもしれないな。ははっ、笑えるだろ。1人になったあの日………………アタイは孤独を感じながら死ぬ気で頑張った。その結果、沢山の仲間達に恵まれた………………でもさ、結局アタイは1人が向いているんだよ。それにみんなもアタイ1人がいなくなったところで」
「いい加減にしろ!」
「っ!?」
それは地下全体に響き渡る程の声量だった。その為、他の檻に入れられた者達が何事かとウィア達の方を見ていた。
「冗談でも言ってよいことと駄目なことがある。お前は何故こんなところにいる?それは仲間達を守ろうとしたからではないのか?もし、それと同様のことが仲間達にも起きていたら、どうする」
「えっ………」
「お前が仲間達を人質に取られたように仲間達もまたお前のことを人質に取られているかもしれないってことだ」
「で、でも"闇獣の血"は獣人族領にいるから………………仲間達は人族領にいるし」
「もしも誰かと組んでいたら、それも可能だろう」
「っ!?そ、そんな………………」
「よいか?物事のありとあらゆる可能性を考え、常に最悪を想定しろ。冒険者ならば、いつ何時何が起こるか分からない」
「………………」
「話を戻すとお前の仲間達はこうしている今もなおお前の安否を気遣い、閉ざされた檻の中で必死に戦おうとしている。そんな中、リーダーであるお前がそんなことでどうする。仲間達の想いを踏み躙る気か。お前にとって仲間とはその程度の存在なのか」
「っ!?そんな訳ない!アタイにとっての仲間達はかけがえのない存在だ!」
「だったら、仲間達を信じて今は自分に何ができるのかを考えろ!後ろ向きになどなるな!ウィア・ベンガルという者の底力を見せてみろ!」
「ああ!見せてやるさ!」
2人はお互いの想いをぶつけ合ったからか、非常に満足した表情を浮かべていた。するとそんな中、別の檻にいる執事長がおそるおそる手を挙げて、こう言った。
「あの〜国王様………………今の声、上にいる奴らに丸聞こえでは?」
「「…………はっ!?」」
どこか抜けている親子がそこにはいた。
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