第310話 仮面

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第310話 仮面

「ご機嫌よう、ウィア元王女……………そしてアムール王」 「………………」 城の地下にある檻へと幽閉されたウィア達の下へ2人の男女がやって来た。1人は片目に黒い眼帯をつけ、片耳が千切れた強面の獣人族の男。そして、もう1人は仮面で顔を隠したスタイルの良い獣人族の女だった。 「っ!?眼帯の男!お前が"闇獣(あんじゅう)()"のリーダーだな!アタイ達や軍団(レギオン)のみんなを解放しろ!」 「ふっふっふ。ここまで来て、逃す訳ないだろう。面白いことを言うな。それにお前の軍団(レギオン)のことなら、"紫の蝋"の連中に言えば良かろう。ま、既にお前の仲間はこの世にいないかもしれないがな」 「くっ………………」 「……………ちょっとよいか?眼帯のお前さんに1つ聞きたいことがある」 「眼帯、眼帯ってうるせぇな。俺にはウルフって名前があんだよ」 「ウルフ?もしや、"隻眼"のか?」 「まぁ、そうも呼ばれてるな」 「ではウルフ殿。お前さん、ウィアを王の間に連れてきた者ではないのか?確か、あの時の男も眼帯を着けておった気が……………」 「あれは双子の弟だ。あいつは右目、俺は左目に眼帯をつけてる。ちなみに片耳が千切れているのは俺だけだから、それでも見分けがつく」 「もしや、弟さんは"狼闘"ヴォルフか?」 「ああ、そうだ。副団長をしている。よく知っているな」 「有名だからな。いくら闇組織とはいえ、規模が大きくなれば、どこかしらから個々の存在も漏れるものよ………………つまり、こんな大それたことをしてタダで済むとは思わないことだ。いずれお前達の全てが明るみになり、今までしてきたことのツケが返ってくるだろう」 「はんっ。よしてくれ。年寄りの説教なんざ別に聞きたくはない。なぁ、お前もそう思うだろう?」 ウルフが隣の仮面をつけた女へ話を振る。女はそれまで沈黙を貫いていたがここで遂に言葉を発した。 「………………いいザマね」 「あん?それは俺に言っているのか?」 「違うわ。檻の中に囚われて何もできない哀れな姫によ」 「ああ……………なるほどな」 女の発言に対してニヤリとした笑みを浮かべるウルフ。事情を知っている者にとっては今の発言は理解できただろう。しかし、彼らの関係性を把握していないアムール王にとっては何が何だかさっぱりだった。 「……………その声はもしかして」 ところが、ウィアは違った。何か心当たりがあるのか仮面の女を真っ直ぐ見つめ、徐々に身体を震わせ始めた。 「久しぶりね、ウィア…………………別に会いたくはなかったけど、あなたのこんな無様な姿を見られたのは嬉しいわ」 女はそう言いながら、着けていた仮面を外した。すると、その顔を見たウィアは"やっぱり"という表情を浮かべ、口を開いた。 「…………馬車の中で聞いたぞ。お前がアタイを攫うよう依頼し、みんなが"紫の蝋"に捕らえられた原因だって……………」 「………………」 「なぁ!何でこんなことしたんだよ。アタイ達は仲間じゃなかったのかよ。ずっと一緒にやってきたじゃんか。お前にとってアタイ達はそんな程度の存在なのかよ……………答えろよ、ディア!!」 仮面を着けた獣人族の女はなんとウィアのクランの副クランマスター兼"獣の狩場(ビースト・ハント)"の副軍団長(レギオンマスター)だった。 「あなた達を仲間だと思ったことなんて一度たりともないわ」 「………………そんな。アタイはお前のことを」 「だって……………」 続く彼女の言葉はウィアの心を完全に打ち砕く程のものだった。 「私は"紫の蝋"のスパイとして、あなた達のクランや軍団(レギオン)にずっといたんだもの」 ――――――――――――――――――――― 「ディアは上手くやってくれたみたいだな」 「みたいですね。でも、びっくりしましたよ。まさか、あの"獣の狩場(ビースト・ハント)"の副軍団長(レギオンマスター)が俺達のスパイだったなんて………………何故、俺達にも教えてくれなかったんですか?」 「あいつは相当慎重な性格でな。万が一のことを考え、スパイの件はお前達には黙っておくよう言われてたのさ。だから、このことを知っていたのは俺と最高幹部の2人だけだ」 「でも、ギルドに登録した時にバレませんか?」 「あいつはうちにいる時は常に仮面を着け、偽名を名乗っていた。だから、奴らの目も誤魔化せたんだ」 「なるほど。仮面……………って、ええっ!?まさか、うちで参謀を務めてくれていたマスカレードさんが!?」 「そうだ。ってか、いちいちリアクションが大きいな」 「そりゃ驚きますって………………それにしてもマスカレード……………ディアさんもスパイなんて危ない橋を渡りますね。いくらで雇ったんです?"獣の狩場(ビースト・ハント)"を裏切らせるぐらいなんだから、相当な……………」 「何か勘違いしているようだから言っておくが、ディアは最初からこちら側だぞ」 「えっ」 「あいつは最初にうちに入り、自らの意志で"獣の狩場(ビースト・ハント)"のスパイを務めていたんだ」 「えっ、何で!?」 「詳しいことは話してくれなかったから分からんが、あいつの心の奥底には深い恨みや怒り、憎悪がある。そして、それは初めて会った時から変わらない。まぁ、それが関係しているかは分からんが」 「……………」 「お前も知っての通り、俺には特殊な固有スキルがある。"紫蝋(しろう)"…………… 対象者にマイナスな感情があれば、その者の胸のあたりに蝋燭が見える。そして、その感情の深さ・大きさが蝋燭に灯った火の揺れ具合で分かるというものだ。俺はその昔、とある街を彷徨い歩いていた。すると、1人の美人な鹿人種の女が目に入ったんた。下心からその女に近付いた俺は手前であることに気が付いた…………………その女の胸のあたりに蝋燭が見え、そこに灯った火が激しく揺れていることに」 「そ、それって」 「ああ。女は何かしらの闇を抱えている。俺は目的を変更して、女に近付いた。そして、こう言ったんだ。俺の軍団(レギオン)に入らないか?と」 「なるほど。そんな過去が」 「女…………ディアは一つ返事で了承した。"ちょうどいい。私の目的を果たせそうだ"と。ディアの目的には興味のなかった俺はその場で事情を聞くことはしなかったが……………もしかしたら、今回の件はあいつの念願だったかもしれないな」 「ではその為に今日までスパイを?」 「スパイというより生きる目的みたいな感じだな、あれは。俺はこの固有スキルを持ってから今まで様々な人間の感情を垣間見てきた。そんな中でもあいつに見えた感情はとても深いものだった。それこそ、その想いを達成する為に生きているかのような」 「何がどうなったら、そんなことに」 「それは分からんが生きてりゃ、色々とあるだろ…………………このようにな」 「へ?一体何を……………っ!?」 男達が目の前を見るとそこには不敵な笑みを浮かべる者がいつの間にか立っていた。 「談笑中のところ、悪い。"紫の蝋"の軍団長(レギオンマスター)だな?」 「"黒天の星"の幹部"十人十色"の1人………………"朱鬼"カグヤか」 「そ、そんな…………」 「じゃあ、早速だが死んでもらうぞ」 「………………どうやら、覚悟を決めなければならないようだな」 軍団長(レギオンマスター)と呼ばれた男はゆっくりと立ち上がると近くに置いていた武器に手をかけた。
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