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第314話 ケジメ
「はぁ、はぁ、はぁ……………」
「うっ………………」
「やっぱり強いな、ディア」
「あなたもね………………はぁ、仕方ないわ」
ところどころ傷がある2人。お互いの武器である剣と棍をぶつけ合ってから、10分が経とうとしていた。その間、一切手を緩めることなく、動き続けていた2人は互いに譲らぬ一進一退を繰り返していた。とはいってもウィアは檻の中に入れられていた分、弱っている為、ハンデはあった。しかし、それを差し引いたとしてもディアの強さは本物だった。
「これを使ったら最後、私は死ぬまで止まらないわ」
「おい、ディア!一体何をする気だ!」
すると何か覚悟を決めた様子のディアはとある固有スキルを発動しようとした。
「"狂鹿"……………現在の自分の力が2倍になるとんでもないスキルよ。ただし自分の意識がなくなり、ただ暴れ回ることしかできなくなる。おまけにこのスキルを使った者は確実に死ぬわ」
「っ!?やめろ!何でそこまでして」
「言ったわよね?私はあなた達に深い恨みがあるって。それにどのみち、こんなことをしでかした私がこれから真っ当に生きていくなんて無理なのよ。だったら、いっそここで幕を閉じた方がマシよ」
「そんなことを言うなよ!アタイも一緒に頭を下げるから!悪いことをしたなら、みんなに謝ろう!こんなケジメのつけ方はおかしいよ!」
「馬鹿言わないで!あなたのそういうお人好しなところが大嫌いなのよ!私はあなたを酷い目に遭わせたのよ?運が悪ければ死んでいたかもしれない。そんな目に遭わせた相手を気遣うなんて正気?」
「確かにディアには酷い目に遭わされた。でも、お前も今はボロボロじゃないか。これで十分じゃないか?」
「相変わらず、甘い考えね。そういったところにつけ込まれるのよ」
そして、遂にディアはウィアの制止も虚しく、固有スキルを発動してしまった。その途端、膨れ上がる殺気。確実に数秒前よりも強くなっている。しかし、その瞳は真っ赤に染まり、それは意識がなくなっていることを意味していた。これに対してウィアもまた固有スキルをフルに活用することで自身の力を底上げした。
「ディア……………お前が抱えているものに気が付かなくてごめん。だけど、これだけは覚えておいてくれ」
そう言うとウィアは真っ直ぐに突っ込んでくるディアへ向けて、剣を振るった。
「ぐふっ!?」
避けようと思えば避けられたかもしれないその一撃をディアは正面から受け止めた。結果、それはディアの胸を貫いて刺さり、ちょうど至近距離で2人は向かい合う形となった。
「アタイはお前のことが大好きだ。こんなことをされてもやっぱり、アタイはお前のことを嫌いになれない」
「………………ふっ、やっぱり大馬鹿者ね、あなたは」
ウィアの言葉と想いがディアの瞳に正常な色を取り戻させる。
「お前を自害なんかさせない。そうさせるぐらいなら、アタイが……………ううっ……………アタイがこの手で…………ううっ……………」
ウィアの手に伝わる感覚。それは自分の手で親友の身体を貫いているものだった。ウィアの瞳からはとめどなく涙が溢れ、それは徐々に視界をぼやけさせていく。
「あなたはいつもそう。無茶苦茶やっているようだけど、常に周りのことを…………誰かのことを考えて動く人。そして、そんな人だから私は……………」
続く言葉は声にならず、側から見れば口だけが動いているように見えた。ところが、ウィアには彼女の声がちゃんと届き、何を言っているのか理解した。
「ううっ……………分かったよ、ディア」
その言葉を聞いたディアはフッと微笑み、そこからはもう動かなくなった。後にはその場で彼女をきつく抱き締めるウィアだけが残っていた。
―――――――――――――――――――――
「ティアか?もうそっちは終わったのか?」
シンヤは魔道具を起動させ、ティアからの通信を受け取った。実は途中からシンヤと別行動を取っていたティアとサラは"闇獣の血"のアジトを潰して回っていたのだ。そして、それが終わり次第、魔道具を使って連絡を取り合う手筈となっていた。
「俺の方もちょうど終わった………………ああ。色々と情報も吐かせたから、そこは大丈夫だ」
シンヤは自分の破壊した箇所を魔法で再生しつつ、上へと向かう。
「ああ。そこで待っていてくれ。今から向かう」
シンヤがいた場所には片目に黒い眼帯をつけ、片耳が千切れた強面の獣人族の男の首が転がっていたのだった。
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