第315話 名の知れた男4

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第315話 名の知れた男4

「シンヤ殿、この度は娘共々救って頂き、本当にありがとう」 「「「「「ありがとうございます!!!!!」」」」」 王の間にて、アムール王が深々と頭を下げる。そして、それに倣い、檻の中に幽閉されていた全ての者達も頭を下げた。 「ウィアのついでだ。だが、一応礼は貰っていくぞ」 「ああ、もちろんだ。何でも言ってくれ」 「とりあえず、金と食料に酒を適当に見繕ってくれ。それでも足りなければ、それは後で考える」 「な、なるほど。なかなかに豪胆だな」 「うちは大所帯だからな。いくらあっても困ることはないんだ。それと少々、なもんで金も食料も飲み物すら、手に入れるのに苦労したことがあってな………………その時のことがあるから、余計にな」 「歳の割には修羅場をいくつも潜ってきているような感じがしていたのはそのせいか………………余程、苦労してきたと見える」 「それがあって今がある。あの頃のことを無駄とは一切思わん」 「がっはっはっ!なかなかに面白い男よの。その落ち着いた感じと物事に動じない性格で軍団(レギオン)を引っ張っているんだな!」 「ちっ……………そこまでバレていたか」 「当たり前だ。そもそもシンヤ殿を一目見た時から、もしかしたらと思っていたのだぞ。なんせ、幽閉されている間、ウィアがシンヤ殿のことをしつこく話してくるのでな。まぁ、そうでなくともシンヤ殿達は有名だ。世間に無頓着な私の耳にすら入ってくるぐらいだからな」 「父ちゃん!余計なことを言うなよ!」 「がっはっはっ!照れるな、我が娘よ!今から意識させんと取り残されてしまうぞ!こんないい男はそうそういない!さぞかし、ライバルは多いことだろう」 「父ちゃん…………」 「一体何の話をしているんだ、こいつら」 豪快に笑うアムール王と顔を真っ赤にするウィア、そしてそれを微笑ましく見守る家臣達。それを見たシンヤは彼らの仲の良さを認識した。それと同時にアムール王とウィアの親子愛に少し羨ましさを感じてもいた。 「時にシンヤ殿」 「何だ?」 ひとしきり笑っていたアムール王はある程度満足したのか、改めてシンヤへと視線をやった。すると急に真顔になり、シンヤを見つめ続けたかと思うととあることを口にした。 「シンヤ殿……………やはり、お前さんはあいつにそっくりだな」 「あいつ?」 「ああ。とはいってもそいつとはもう30年も会っていないんだが」 「30年前?そんな昔に会った奴のことを覚えているのか?」 「ああ。あいつは色々な意味で変わった奴だったからな。忘れようとして忘れられるものでもない」 「父ちゃん、それってもしかして」 「ああ。あいつだ。お前も所属していたクランの…………」 「まさか、クラン"箱舟"のクランマスターとかいうんじゃないだろうな?」 「っ!?シンヤ殿、どこでその名を!?」 「ブロンも言っていたんだ。俺がそのクランマスターに似ているってな………………っつても、悪いが俺はそんな奴のことを何一つ知らないからな?」 「いや、別に今更、シンヤ殿からあいつの居場所を聞こうとかそんなつもりはないさ。ただ、本当にそっくりだと思ったもんでな」 「髪と瞳の色が同じってだけだろ」 「いや、それだけじゃないよ。だって、アタイも最初に見た時、思ったもん。そっくりだって。髪と瞳の色だけが同じだからって3人分の証言は集まらないだろ?」 「ウィアもか………………まぁ、そうだな。じゃあ、そういうことにしておくか。別にそんなどこの馬の骨とも分からない奴に似ていたところで実害はないしな。というより、30年も経ってれば既にどっかで野垂れ死んでいるかもしれないしな」 「シ、シンヤ結構辛辣だな。でも、アタイ達も心配しているんだよな。だって、この間、クラン"箱舟"の元メンバーが集まったんだけど、そこにあの人の姿はなかったから」 「同窓会的なやつか?昔、ある本で読んだが"同窓会に先生は呼ばず生徒だけで楽しむ"といったこともあるそうだ。そして、その逆で先生側が空気を読んで参加しないとかな」 「え?同窓会?先生?生徒?何それ?」 「つまり、そいつがお前らに遠慮して参加しなかったかもしれないってことだ」 「いや、あの人は遠慮とかとは無縁な人だから。だって、シンヤにそっくりなんだよ?そんな人が遠慮とか……………」 「ほぅ?つまり、なんだ?俺は周りに対して遠慮とかはせず、ひたすら空気の読めない勘違い男だと?」 「いや、そこまでは言ってない!ただシンヤは遠慮とかしない人だって…………………あっ」 「この馬鹿娘!何を心象を下げるようなことを言っている!そこは嘘でもシンヤ殿を配慮のある男だと言っておけ!…………………あっ」 「お前ら……………親子揃って………………」 「あ、あの〜シンヤ殿?よろしければ、うちの娘を伴侶に」 おずおずと話しかけるアムール王。それに対して、シンヤから超弩級のツッコミが入った。 「どのタイミングで娘を差し出しとんじゃ〜〜!」 この光景に周囲の家臣達はやれやれとため息を吐かざるを得なかった。 ――――――――――――――――――――― とある街の冒険者ギルド。その掲示板に貼られた記事を見ている薄汚れたローブを纏った男は立ったまま、ジョッキに入った酒を一気に飲み干し、ニヤリとした笑みを浮かべた。 「おいおい。あそこにいる奴、何で笑ってんだ?別に自分のことが載っている訳でもねぇのに」 「知るか。あまり関わんな。酷い目に遭うぞ」 「そうなのか?」 「ああ。その素性は一切不明だが、これだけは分かっている。奴に関わった者は誰1人例外なく、悲惨な目に遭ってる」 「ゴクリッ………………本当か?」 「ああ。覚えておけ。薄汚れたローブに傲岸不遜な態度をした黒髪黒目の男……………こいつには絶対に関わるな」 「わ、分かった!」 「それともう1つ。奴の名は"キョウ"でこの辺りじゃ…………」 その後、薄汚れたローブの男は自身の陰口を気にすることなく、堂々とギルドの扉を開けて外に出る。そして、遠くの方を見つめて、呟いた。 「ようやくか……………」
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