第349話 奥の手

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第349話 奥の手

「なんだと?」 フォルトゥーナの発言に対し、静かに言葉を発するシンヤ。しかし、その静かさが逆にシンヤの感情をよく表しており、並大抵の者では彼から放たれる殺気に耐えることができなかっただろう。とはいっても幸いにもここにいるのはシンヤの仲間達と神である。つまり、並大抵の者ではない為、失神するようなことにはならなかった……………それでも自然と冷や汗を流してはいたのだが。 「彼らは天界をある程度、荒らし回った後に自分達の部下を異世界へと送り込み、そこを第二の拠点にしようと企んでいるわ。今はまだ暴動が起き始めたばかりでそこまで天界も被害は受けてないけど、このままいけばおそらくは……………」 深刻そうに語るフォルトゥーナ。一方のシンヤは軽く嘆息すると一言、こう言った。 「その神達ってのはどこにいる?」 「え?」 「何を驚いた顔してんだよ。今からそいつらを潰しにいくんだよ」 「ええっ!?」 「そんな驚くようなことか?異世界(あっち)には俺の仲間達が沢山いる。だったら、部下達を送り込む前にそいつら全員を叩きのめせば……………」 「そんな簡単に言わないで!!」 これまで聞いた中で最も大きな声での叱責に今度はシンヤ達が驚く番となった。見れば、フォルトゥーナは非常に辛そうな表情で歯を食いしばっていた。 「はっきり言うわ。今のあなた達では彼らには絶対に勝てない……………それは最終進化を果たし、"下級神"となったシンヤであってもよ」 「………………」 「それほど"神"というのは特別な存在なの。そして、その位が上になればなるほど、その力も増すわ」 「……………じゃあ、どうすることもできないってことか」 「……………いいえ。1つだけなら、手があるわ」 「っ!?それはどんな手だ?」 フォルトゥーナの言葉に身を乗り出さんばかりに詰め寄るシンヤ。対して、フォルトゥーナはとても言いづらそうにしながら、シンヤへ確認を取った。 「で、でも、これは奥の手として存在する手で………………」 「だから、それを教えてくれって言ってんだよ」 「言っておくけど、かなり危険なのよ?それこそ、命に関わるぐらいに!それも絶対に成功するとは限らないわ!!」 「命に関わる?だから、何だ……………俺はこんなところに留まったまま、異世界(あっち)に残してきた仲間達が殺されていくのを黙って見過ごすことなんて、できない……………もし、そんなことになれば、俺は確実に後で死にたくなる」 「シンヤ…………あなた…………」 フォルトゥーナは感激したのか、思わず目を閉じてシンヤを抱き締めた。 「お、おい。やめろ」 「そう。あなた命を張れるぐらい大切なものを見つけたのね」 「……………」 「本当にいいのね?」 「ああ」 シンヤはフォルトゥーナに抱き締められながらも特に不快感を感じることなく、むしろそこには不思議な安心感があった。そして、チラリとシンヤが横目でフォルトゥーナの顔を見ると彼女もまたシンヤを見つめていた為、少しの間、視線が交差した。 「どうやら、決意は揺らぎそうもないわね……………よし、分かったわ」 フォルトゥーナはシンヤの表情から大きな覚悟を感じ取り、しっかりと頷いた。そして、シンヤから身体を離すと真剣な表情でこう言った。 「彼らの暴動が本格的になり、部下達を異世界へと送り込むまでまだまだかかるわ。その間、あなた達には……………」 ここで突然、フォルトゥーナが右手を横にかざすとそこにまるで次元の裂け目のような黒い穴が開いた。 「この中に入って、修行してもらうわ」 「……………何だ、そこは?」 「私が独自に創り出した空間よ。本当はシンヤに何かあった時に守ってあげられるようにと前々から創っていたのだけど………………まさか、逆に守ってもらう為に使うとは思わなかったわ」 「俺は仲間達の為に動くんだ。別にお前の為じゃない」 「…………まぁ、それでもいいわ。でも、これだけは言わせて………………本当にありがとう」 「…………礼なら、無事に生き残れたら言うんだな」 「っ!?シンヤちゃん!!」 「うざいから、近寄んな」 その後、黒い穴の中へと入っていくシンヤ達を不安と期待が入り混じった顔で見守るフォルトゥーナ……………と、最後になったシンヤが振り返り、こう言った。 「色々とありがとな。それから、お前のことを色々と誤解してた………………すまん。じゃあ、行ってくる」 フォルトゥーナはそんなシンヤの頼もしい背中を見送りながら、小さく呟いた。 「キョウヤ……………私達の息子はあんなに逞しくなりましたよ………………まぁ、それはあなたの方がよく知っているんでしょうけど」
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