第352話 開戦

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第352話 開戦

「やれ!!」 「俺達の怒りを見せつけてやれ!!」 天界のとある場所。そこは下級神達が静かに暮らしている場所だった。比較的穏やかな神達が身を寄せ合って暮らしており、日常では争いなど滅多に起きないその場所はしかし…………………現在、とても凄惨な状態にあった。 「やめてくれ!!」 「お、俺達が一体何をしたっていうんだ!!」 「きゃ〜!!」 悪神達の連合軍、"神々の軍勢(エインヘルヤル)"は何の罪もない下級神達を次から次へと襲撃し、その被害に遭った者達の多くが命を落としていった。いくら神といえど、階級が1つ違うだけで赤子と大人程の実力差がある。その為、下級神達は中級神程の実力がある彼らに対して為す術がなかったのだ。 「ふんっ!!何を被害者面してやがる!!元を辿れば、お前らが俺達の存在を奴らにチクッたんだろうが!!そのせいで俺達はあの地獄のような監獄へと幽閉されて」 「そ、そんなのお前達の自業自得じゃないか!!」 「そうよ!そんなに捕まりたくないんだったら、悪いことはしないで真面目に暮らしていきなさいよ!!」 「うるせぇ!!一丁前に説教してんじゃねぇ!!俺達が更生なんかする訳ねぇだろ!!」 「それにの奴らを困らせる意味でお前らはどのみち生贄だ。大人しく犠牲となってればいいんだよ」 「「「「「………………」」」」」 わがままな理屈で自分の言い分を通そうとする悪神達の無茶苦茶さ加減に下級神達は呆れて言葉も出なかった。 「何を呆けた顔、してやがる!!」 「チャンスだ!!やっちまえ!!」 しかし、思考は狂っているが実力は本物の"神々の軍勢(エインヘルヤル)"。そんな彼らが下級神達が硬直している隙を見逃すはずもなく、襲撃はその勢いをさらに増していった。 「うわぁ……………もう終わりだ」 「この世界に神はいないのか」 すると、この状況に諦めの念を抱いた多くの下級神達は膝を地につき、逃げることを放棄し始めた。そして、それを見た襲撃者達は口々にこう言った。 「馬鹿言ってんじゃねぇよ。"この世界に神はいないのか"だって?」 「ギャハハハッ!!本当に馬鹿だぜ、こいつら」 「神はお前ら自身だってのによ!!」 「言ってやるな。平和な日常に突如、訪れた災害。そりゃ、言ってることがおかしくもなるさ」 「っつてもこいつら、弱くて話になんねぇぜ。もう"神"辞めちまえよ」 「それ、いいな!!聞いたかよ、ゴミクズ共!!弱い神なんて存在する価値がねぇんだよ!!だから、早く消えちまえ!!」 下級神達は身体と精神の両方を攻められ、既に満身創痍の状態となっていた。一方の襲撃者達は皆、嬉々として己の武器を掲げ、彼らを一箇所に固めて一斉に振るおうとしていた。 「「「「「…………………」」」」」 下級神達は自分達の辿る運命が"死"であるということを確信し、それを受け入れようと硬く目を閉じ、両手を組んで祈るようなポーズを取った。 「はんっ。つまらねぇ。もっと抵抗するかと思えば、早々に諦めてこのザマかよ」 「こんな雑魚のせいであんな思いをしていたかと思うと腸が煮え繰り返りそうだ」 「しらけたぜ。さっさとやっちまおう」 そう言うと"神々の軍勢(エインヘルヤル)"は一斉に武器を下級神達へと向けて振り下ろそうとした。下級神達はその間、目を閉じながらも心の奥底では死にたくないという思いが溢れ、思わず祈らずにはいられなかった。 "誰か、助けて下さい!!" 皆がそう祈る。ところが、そう都合の良いことなど現実に起こるはずがない。彼らもそれは分かっており、自身の身体に武器が接触する直前までほぼほぼ諦めかけていた。 「……………ん?何だ?」 だが、彼らの祈りはちゃんと届いた。 「おい。さっきまであんな奴、立ってたか?」 「ったくよぉ。生き残りがまだいやがったか。こっちも暇じゃねぇんだぞ」 なんと彼らから5m程離れた場所にいつのまにか、黒髪黒眼の青年が立っており、"神々の軍勢(エインヘルヤル)"はそこへ向かってぞろぞろと歩いていった。 「なんか妙だな……………ん?ちょっと待て。あいつはどうやってここに来た?ここに来るまでに俺達の仲間が沢山いたはず。下級神程度で無事に来れる訳が……………っ!?お前ら、止まれ!!そいつは」 この集団のリーダーである男が違和感と危機感から焦って、言葉を発した次の瞬間、 「「「「「え…………………」」」」」 青年に向かっていた者達は皆、頭が身体から斬り離されていた。この一瞬の出来事に襲撃者達は驚き、その挙動を捉えることができた者はこの場には存在しなかった。 「さて……………確か、弱い神は存在する価値がないんだっけな」 刀から滴り落ちる鮮血をそのままにニヤリとした笑みを浮かべる青年、シンヤ。直後、悪寒を感じた"神々の軍勢(エインヘルヤル)"は武器を握り締める手が自然と強くなり、表情も強張り始めた。これが後に"神々の黄昏(ラグナロク)"と呼ばれる聖戦の始まりだった。
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