第354話 虹の天橋

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第354話 虹の天橋

「ぐふっ……………」 「ロキさんっ!!」 "神々の軍勢(エインヘルヤル)"第1部隊部隊長ロキは口から大量の血を吐きながら地面へと倒れ伏した。すると、それを見た副部隊長のガルムは慌てて駆け寄り、その身体を抱き起こした。 「貴様……………一体何者だ?俺達をこうも容易く……………」 「…………………」 途切れ途切れではあるがシンヤへと鋭い眼光を向けて話すその姿勢からはまだ心では負けていないと訴えかけるようでもあった。 「けっ、ダンマリかよ………………まぁ、いい。どのみち、お前らは」 「?」 「俺の名はロキ!!"悪戯の神"、"偽神"とも呼ばれる者であり……………全てを終わらせる者だ!!」 ロキがそう言い放った直後、どこかで地鳴りのような音が聞こえ、多数の気配がある場所へと向かっていくのをシンヤは察知した。 「……………終わらせる者ねぇ」 「ふんっ。その表情は"嘲笑"からくるものか、はたまた"焦り"からくるものか………………まぁ、そんなのはどっちでもいいがたった今、起こったことはお前らの予想だにしないことだろう」 ロキはニヤリとし、いきなり大きな声でこう言った。 「おい、"虹の天橋(ビフレスト)"よ!!聞こえるか?聞こえたら、返事をしろ!!」 「は、はい!!こちら"虹の天橋(ビフレスト)"。聴こえております」 「よし。ではまず最初の質問だ。たった今、お前達の目の前には何が見えている?美しい山か?それとも澄んだ湖か?はたまた堅牢な要塞か?いずれにしても俺達が生活の基盤を築くには事足りる……………」 「そ、それが大変申し上げにくいのですが」 「ん?何だ?言ってみろ。ちょうど目の前に調子に乗って俺達に奇襲をかけてきた馬鹿がいてな。そいつに一泡吹かせてやろうぜ」 「……………それではご報告致します。現在、我々は武装した未知の敵に周辺を囲まれており、予期せぬ奇襲に遭っています」 「………………は?」 「このまま我々の行動を妨害されますと今後の動きに支障が……………ぎゃ〜っ!?」 「お、おい!!どうした!!無事か!?無事なら、報告を!!」 ロキの声掛けも虚しく、その後の反応が返ってくることはなかった。そして、あまりに想定外なことにしばし呆然としているとニヤリとした笑みを浮かべているシンヤが目に入り、ロキは思わず問いただした。 「どういうことだ!?ま、まさかお前はこのことを」 「ああ。知っていた。お前ら"神々の軍勢(エインヘルヤル)"は天界殲滅班、そして"虹の天橋(ビフレスト)"は地上殲滅班というように軍を2つに分けて、効率的に動こうとしていた。こうすることで仮にどちらかが失敗したとしても悲願が達成できるようにしたんだ」 「ちっ、何故バレた!?まさか、俺達の中に裏切り者が」 「いいや。お前らはとてつもない執念で以って動いている。たとえ拷問を受け身体の部位をもがれようが、おそらく裏切ることはないだろう」 「で、では一体何故……………」 「安心しろよ。お前らに落ち度はない。本来、お前らの作戦は未来でも見えていなければ破られることはないんだからな」 「っ!?ま、まさかお前っ!?」 「そういうことだ。相手が悪かったな"神"」 ――――――――――――――――――――― 時は遡り、修行を終えてフォルトゥーナに別れを告げた直後、シンヤ達は一箇所に集まり、これからあるところへ通信を試みようとしていた。そのあるところとは………………… 「あ〜……………聞こえるか?俺はシンヤ・モリタニ。冒険者だ」 シンヤ達が天界に来る直前までいた場所…………つまり異世界の地上へ向けてだった。 「まずは急にこんな形で通信してしまっていることを詫びたいと思う。すまない」 突如、聞こえてきた声とその声の主に驚きを隠せない地上の者達。そんな彼らに対して、シンヤは次々と驚くべき内容を告げていった。 「今、俺の声は世界中に届いている。もちろん、これは悪戯でやった訳ではない。ある目的があって、こんなことをしている」 「目的?」 「一体何なのかしら?」 人々はシンヤの言葉によく耳を傾けた。最高ランクの冒険者、それも英雄が伊達や酔狂でこんなことをするはずがないと分かっていたからだ。 「心して聞いてくれ……………今から約2時間後にとある集団が世界中に現れ、世界を滅茶苦茶にしようと暴れ回る。そこで出る被害は"邪神災害"や"聖義事変"の比ではない」 「っ!?」 「な、何だと!?」 人々は突然告げられた内容に慌てふためいた。しかし、続くシンヤの言葉によって、それはだいぶ緩和された。 「もちろん、それは何も知らなかったらの話だ………………今から敵の出現ポイントとそのおおよその数を言う。戦える者、それも覚悟のある者は向かってくれ。一般人は余計なことをせず、安全な場所まで逃げてくれ………………それと」 そこでシンヤの声のトーンが変わり、労わるような口調になった。 「留守番させといて、最初の報告がこれで悪いな。本当はもっと連絡したかったが、余計な心配を掛けたくなかった。まぁ、結果的にした方が良かったかもしれないが………………」 一部の者はシンヤのこの言葉にくすりと笑い、それに対して顔を真っ赤にさせる者もいた。ところが、その表情も次の言葉で引き締まった。 「ともあれ……………お前らが先頭に立って敵を殲滅してくれ。まぁ、とはいっても今までの敵とは明らかにレベルが違う。だが、ここ一週間で感じたはずだ。………………そして、それに加えて今から力を贈る………………ああ、ちなみにその力は敵との戦いに挑む者全てに贈るつもりだ。しかし、勘違いしないで欲しいのはその力は戦いが終われば消えてしまう。だから、己の欲を優先せず、純粋に世界の為に動いてくれ………………まぁ、そうしないとどのみち世界は終わるんだけどな」 さらっと告げられた真実に驚愕する人々。一方の戦える者達はやる気に満ち溢れ、武器を握る手が自然と強くなっていた。 「じゃあ、今から出現ポイントを言うぞ。まずは……………」 「おりゃ!!」 「消えろ、侵略者共!!」 「凄ぇ!!力が溢れてくる!!」 冒険者を中心とした戦える者達は地上を明け渡すまいと敵に向かって、意気揚々と突っ込んでいった。すると、その勢いにやられた敵は次から次へと倒れていき、その軍配は冒険者達に上がりそうだった。 「ふふふ。シンヤも言うね。前まであんなことしなかったのに」 「この変化が良いものか、そうでないかはさておき……………随分と嬉しそうですね」 そして、ここにもシンヤからの言葉と力を貰い、動き出した者達がいた。リース達、"黒天の星"の従魔部隊だった。 「まぁね………………おっ、あんなところに敵がいたよ!後ろ姿しか見えないけども……………ん?たった1人?しかもあそこは出現ポイントじゃないはず。妙だね、セバス」 「ええ。一体どういうことで………………っ!?」 「……………えっ」 平和な会話をしていた直後に訪れた恐慌。リース達の視線の先にいたはずの不気味な者はいつのまにか、リース達のそばまで近付き…………………その者の腕がリースの腹を貫いていた。
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