第7話:ミームの商売

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第7話:ミームの商売

私はミーム。ここフリーダムで奴隷商の店主をしている。奴隷商とはいっても様々な経営スタイルがあり、一概にこれが正解だと言えるようなものはない。だが、そのほとんどに共通していえることがある。それは奴隷の扱いが酷すぎるということだ。まぁ、酷すぎるというのは私個人が感じていることであり、他の奴隷商を営んでいる者にとってはあれが普通なのだろう。現に私も若い頃、見習いとして他の奴隷商の下で働いていたことがあるが、その時も奴隷の扱いはあまりよくなかったのを強く覚えている。具体的に言えば、衛生面はさることながら、奴隷のメンタル・身体面共にちゃんとしたケアが行き届いておらず、みんな死んだ目をしながら自分達の行く末をぼんやりと見つめていた。私はその時、思った。もしも自分が店主となって奴隷商を営む時がくれば、その時は奴隷をちゃんと扱おうと……………しかし、現実はそう甘くなかった。資金が潤沢にない状態で始めた経営な上、土地自体が都会でないとはいえ、様々な種族が入り乱れる街だ。当然、商売敵も多い。さらに言えば、新参者である私に営業場所の希望など通るはずもなく、結果…………… 薄暗く傍目から見てもあまり長く居たいと思えないような場所での営業を余儀なくされてしまうのだった。そして、先に述べた通り、私には資金があまりない。となると当然、衛生面・奴隷達のケア共にお金をかけることができず、結局は嫌悪していた奴隷商の経営状態と酷似したものとなってしまったのだった。 「………………」 立地も店内の状態も最悪。そんなところに来店などあろうはずもなく、たまに訪れて下さるお客様によって、なんとか支えられている状態だった。それがどのくらい続いただろうか。周りの商売敵達が皆こぞって、都会へと移っていくようになり、以前よりは客足も伸びた頃、ある1人のお客様が店を訪れた。見たところ、20歳前後といったところか。それは黒髪黒眼という非常に珍しい青年だった。身なりからして、おそらく冒険者なのだろう。青年の左右には彼を守るようにして、獣人とエルフの女性が1人ずつ立っていた。別にお客様に差別や贔屓など今までしたことがない。だが、この時の私は何が何でもこのお客様に精一杯の接客をしなければ……………理由は分からないが、そう思った。 「ふぅ〜……………第一章はこんなものか。さぁ、続き続き」 表情にこそ出さないものの、そのお客様達は不快な思いをしているに違いない。そう考えると日々感じている自分の理想と現実のジレンマにまた苛まれてしまう。とにかく、私は今できることを全うしようとお客様への接客に注力した。すると、どうだろう?あまりお気に召さない感じだ。それどころか、先程から奥の檻が気になるようだ。しかし、その檻はあまりオススメできない。どうにか断りたかったがお客様に気になると言われてしまった。そうなるともう私にはご案内するしか道が残されていない。あらかじめ忠告をさせて頂きつつ、お客様をその檻までご案内した。そっからはもう驚きの連続。トントン拍子で話が進み、結果的にお客様はその檻の中にいた奴隷…………カグヤを買っていかれた。そして、私はお代とは別に銀貨を握らされていた。その後、私はお客様を丁重に見送りつつ、今後もそのお客様には是非店を訪れて欲しいと思っていた。その時、私の中の何かが告げていた。あのお客様は何かが違うと。私は下げていた頭を上げると同時に店を閉めて、その足で市場へ駆け出した。お客様に頂いた銀貨で店内の状態を良くする為に清掃道具や奴隷達の食品などを買う為に。本当にあのお客様……………シンヤ様には頭が上がらない。あれからも色々と良くしてくれているし、引き取られた奴隷もみんな幸せそうだ。あの方以外にはお売りしたくない……………そう思える程に。 「ミームさん!シンヤ様がいらっしゃいました!」 「お、タイムリーですね。今、伺います」 私は書き連ねていた日記を閉じて、最近雇った従業員に続いて部屋を出た。 「よっ、ミーム。久しぶり。ちょうど近くに寄ったから、来たぞ。これ、土産」 「お久しぶりです、シンヤ様!おぉ、これはこれは!ありがとうございます!……………あっ、そういえば今ってお時間あります?」 「ん?あるが」 「実は是非、シンヤ様に見て頂きたい子達がいるんです!!」 「ほぅ?」 「獣人族の兎人種にハーフエルフ、さらには人魚族の………………」 願わくば、この子達も彼の下で幸せに暮らせますように。
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