1、イルミネーション

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「えっ、何? どうしたの急に」  飴の包み紙が入れっぱなしになってたかも、と一瞬ひやりとする。 「いや、なんか凛花って秘密主義なとこあるよな」  身体を(かが)めた亮介は上目遣いに凛花を見る。 「え? どういう意味? そんなことないよ」 「えー、怪しい」  亮介は凛花のポケットに手を入れたまま、もう一方の手で腰の辺りを探ってくる。 「もー、やめてよ、歩きにくい」 「隠してることあったら今のうちに白状しろー」 「別にないってば」  凛花は腰の手を振りほどくように身をよじるが、亮介はまだ疑念を残すような顔で見つめてくる。  秘密主義などと言われたのは初めてだった。自分ってそんなふうに他人の目に映っているのだろうか、と凛花は振り返ってみる。そしてひとつだけ思いつき、それを口にした。 「あ、でも話しておきたいことはある、かな」 「え? 何? なんか怖いんだけど。実はバツイチで子どもがいるとかじゃないよな。まぁ、構わないけどさ」 「そういうんじゃないよ、私の、家族のこと」 「うん」 「三歳離れた兄がいるって話はしたよね?」  凛花がそう言うと、亮介は心なしかほっとしたようなそんな表情になった。本気で凛花がバツイチだと思っていたのだろうか。 「あぁ、確かまだ独身で、凛花、家族写真とか全然見せてくれないから、どんな人だろうって気にはなってた」 「兄ね、障害があるんだ。知的障害なんだけど、障害って言っても今は作業所でちゃんと働けてるし、自分の身の回りのことだって自分でできるよ」 「ふうん、そっか」  なんでもないことように相槌を打つ亮介に、今度は凛花がほっとする。思っていたよりもこの告白には勇気がいったのだと、その時初めて凛花は気付いた。  学生時代を知る人たちと離れて以降、自分から兄のことを誰かに打ち明けたのは初めてだった。 「それだけ。隠してたわけじゃないけど、言うの遅くなってごめんね」  亮介の顔を見上げると、亮介は考えるように視線を宙へ彷徨わせた。街路樹のイルミネーションが白や青色の光を点滅させている。 「いや、俺の周りにそういう人いないからさ、想像つかないっていうか、どう接したらいいかな」 「大丈夫、会話もできるし、長いやりとりは難しい時もあるけど、特別な気遣いはいらないよ」 「そっか」  亮介は短くそう言うとポケットから手を抜き、代わりに北風で冷たくなった凛花の指先を握った。
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