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「えっ、何? どうしたの急に」
飴の包み紙が入れっぱなしになってたかも、と一瞬ひやりとする。
「いや、なんか凛花って秘密主義なとこあるよな」
身体を屈めた亮介は上目遣いに凛花を見る。
「え? どういう意味? そんなことないよ」
「えー、怪しい」
亮介は凛花のポケットに手を入れたまま、もう一方の手で腰の辺りを探ってくる。
「もー、やめてよ、歩きにくい」
「隠してることあったら今のうちに白状しろー」
「別にないってば」
凛花は腰の手を振りほどくように身をよじるが、亮介はまだ疑念を残すような顔で見つめてくる。
秘密主義などと言われたのは初めてだった。自分ってそんなふうに他人の目に映っているのだろうか、と凛花は振り返ってみる。そしてひとつだけ思いつき、それを口にした。
「あ、でも話しておきたいことはある、かな」
「え? 何? なんか怖いんだけど。実はバツイチで子どもがいるとかじゃないよな。まぁ、構わないけどさ」
「そういうんじゃないよ、私の、家族のこと」
「うん」
「三歳離れた兄がいるって話はしたよね?」
凛花がそう言うと、亮介は心なしかほっとしたようなそんな表情になった。本気で凛花がバツイチだと思っていたのだろうか。
「あぁ、確かまだ独身で、凛花、家族写真とか全然見せてくれないから、どんな人だろうって気にはなってた」
「兄ね、障害があるんだ。知的障害なんだけど、障害って言っても今は作業所でちゃんと働けてるし、自分の身の回りのことだって自分でできるよ」
「ふうん、そっか」
なんでもないことように相槌を打つ亮介に、今度は凛花がほっとする。思っていたよりもこの告白には勇気がいったのだと、その時初めて凛花は気付いた。
学生時代を知る人たちと離れて以降、自分から兄のことを誰かに打ち明けたのは初めてだった。
「それだけ。隠してたわけじゃないけど、言うの遅くなってごめんね」
亮介の顔を見上げると、亮介は考えるように視線を宙へ彷徨わせた。街路樹のイルミネーションが白や青色の光を点滅させている。
「いや、俺の周りにそういう人いないからさ、想像つかないっていうか、どう接したらいいかな」
「大丈夫、会話もできるし、長いやりとりは難しい時もあるけど、特別な気遣いはいらないよ」
「そっか」
亮介は短くそう言うとポケットから手を抜き、代わりに北風で冷たくなった凛花の指先を握った。
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