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どのくらいの時間、こうしていただろう。真っ黒になった画面を見つめる。
凛花はスマートフォンをぞんざいにベッドへ投げ、冷たいフローリングへ腰を下ろした。
指先を眉間に当てる。強張った肌を押さえると、ツンと鼻の奥が痛んだ。
目を閉じたまま、しばらく指先に頭の重さを任せた。
スマホが震えている。
ぼんやりとする頭のままベッドへ倒れ込み、そのまま手を伸ばしてスマホに触れた。
まだ小刻みに震えているその画面を見て、凛花は応答ボタンをタップし、耳に当てる。
「もしもし凛花ちゃん? お母さんだけど」
通話開始が待ちきれないといった様子で、前のめりに母が話しだす。
「うん、どうしたの?」
「今日ね、お兄ちゃんが作業所の所長さんから表彰されたの。真面目に取り組んでいて立派だって。同じ作業所でもお兄ちゃんともうひとりだけだったのよ、表彰されたの」
話したいことがまとまらないうちに、思いつきで電話をかけてくる母にはもう慣れっこだ。
「そう、良かったね」
表彰されてもされなくても、兄は兄だ。そんなふうに言っても、母がその真意の半分も理解しないだろうことはもうわかっている。
疎遠になっていた母に凛花から電話をした数年前、それから母は週に一、二回ほど電話をかけてくるようになった。
本当は毎日電話したいけど父に諌められたのだと、母は不満そうに呟く。もちろん毎日だなんて困るけれど、疎遠にしていた罪滅ぼしのつもりで、凛花は母の長話に付き合うことにしている。
いつしか母と和解していた。物理的に距離ができてはじめて、母の寂しさ、苦しみを受け入れる隙間ができたのかもしれない。
それから作業所での兄の様子や、理解のある所長さんの話にひとしきり相槌を打ったあと、母が唐突に話題を変える。
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