0人が本棚に入れています
本棚に追加
4、ポケットの中
次の日、凛花は一日中、とろとろと低空飛行の眠りを貪った。
水に溶いた片栗粉が白く重く沈んでゆくような、そんな寄る辺のない睡眠だった。
ぼんやりと夕方まで寝て、さすがに目が冴えて起きる。
長い眠りの間、夢はひとつも見なかった。
いや、思い出せないだけだ。すぐ傍にあるものを見失うのと同じで。
重いまぶたを再び閉じる。久しぶりにあの夢を見た、そんな気がした。兄を助けようと手を伸ばす、あの夢だ。
今回も助けられなかったんだろうか。そう思ったあと、凛花はゆっくりと目を開けた。
──助けてほしいと手を伸ばすのは、私なのかもしれない。
深い穴に手を差し入れ、指先が届くまで懸命に手を伸ばす。ほしい時に必ず触れるわけじゃない。ふとした時、そこに手があることに気付くのだ。
ポケットに手を入れてみてはじめて、指先の冷たさを知るように。その湿った温もりは、他人からは見えない。
私の家族はポケットの中にいる。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!