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「それに、君はお父さんとそっくりだったから……名前を見なくてもわかったよ」
俺は銀色の蓋にぼんやりと映る、俺の顔をじっと見た。たしかにさっき見た父の顔とよく似ている。
「真面目で丁寧な運転をする方だったからね。よく覚えているよ」
老人が遠い目で窓の外を見た。秒針の音とクラシックの音に紛れて、カタカタと電車が線路を走る音が聞こえてくる。
「……ありがとうございました。あの、お代は」
立ち上がり、財布を出そうとする俺を制し、「いいよ、そんなの」と老人はひらひらと手を振った。ありがとうございます、と俺は深々と頭を下げる。
「ほら、早く行きなさい。お母さんが待ってるんだろう」
彼にはなんでもお見通しのようだ。はい、と俺は頷いてポケットに懐中時計をしまい、ガラスの扉を押す。
カランカラン、とベルが俺の背中を押すように鳴った。
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