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 俺よりも時計が大事かよ。俺のことは忘れるくせに、時計のことは忘れないのかよ。父さんなんか大嫌いだ。  そんなドス黒い感情が渦巻いて、ずっと消えることはなかった。父が死んで、10年経った今でも。父が息子より大事にした時計なんて、二度と見たくもなかった。しかし。   「この時計をね、直して欲しいの。良樹にとっては、見るのも嫌な時計かもしれないけれど……」  病気でやつれた母の頼みを、断ることはできなかった。 「あの町の時計屋なら、直せるはずなの。というより……あの時計屋にしか、直せないと思うの」  母はそう言って俺の手に懐中時計を握らせた。小ぶりの銀色の、父が死ぬまで大事にしていた時計。唇をかみしめて、無理やり「わかった」と俺は絞り出すように言った。  ぼおん、ぼおんと鐘の音がする。
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