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「若、どうしますか?爆睡しているようですよ」
何やら遠い彼方のさらに向こうで声が聞こえたような気がするが、心身ともに疲れ果てた春は指一本動かせそうになく、瞼も張り付いたように重くて開く事さえ面倒だった。
このまま意識が醒めなければいいのに。
そう思っていた春の体がふわっと浮き上がり誰かの腕に抱えられた。
逞しい腕だな。
遥か昔、大好きな父に抱きしめられた感覚が甦る。
「父さん。。」いつの間にか無意識にそう呟いたのか春の頭上から「お前の親父じゃねぇ。俺はまだ30代だぞ」と苛立つ声が聞こえた。
ゆっくりと開けた目の前に男の顔が至近距離にあるのに気づき驚きのあまり体に力が入る。
「動くな。落ちるぞ」男の鋭く射抜くような目に見つめられてまさに囚われた獲物のように身動きが出来ない。
眼光強すぎっ。
春は目を細めて体を小さくする。
支えられた両腕の逞しさに改めて驚きつつ、自分がお姫様抱っこされている事に気がつき慌てて「すいませんっ、降ります!」と男に告げる。
男は、ただジっと無言で春を見つめ「そのまましていろ」とだけ告げてズンズン進む。
しばらくすると、やたら立派な門構えが現れてギギっと扉が開くと男は頭を少し下げてくぐった。
「おかえりなさいっ」
やたら野太い男達の声が両側から聞こえ思わず「ひぇっ」と変な声が出た。
チラッと前方を見るとズラリとガタイのいい男達が頭を下げていた。
中には所謂スキンヘッドの人もいる。
え?
ここって。
もしかして、、、。
「若、親父さんがお呼びです」
1番前の年配風な人が男に声をかける。
「なら、お前、こいつを頼む」そう言うと春をまるで荷物のように横にスライドしてポンと相手に渡した。
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