捨てる神あれば拾う神あり

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異様な空気のまま車はスーと滑らかに走り続ける。普通の車より広くとられた後部座席はゆったりとしていて、黒づくめの男の組んだ長い足を伸ばしても余裕を感じられる。 小さい体を更に小さくしてドア側に身を潜める。 赤になって止まったらドアを開けて逃げよう。 そう春は判断しドアに密着してその時を待つ。 何やら得体の知れない鋭い視線を横から感じ、 春はそっとそちらに目を向ける。窓の淵に肩肘をついた男がジッと春を見ていた。 「お前の命はすでに俺のものだ。余計な事を考えるなよ。」 春の考えている事など筒抜けと言わんばかりに男は告げる。そんな男の顔を改めてよく見るとすごく整った顔をしていた。 高い鼻筋に男らしい口元。 クッキリと二重である目元は鋭い眼光を放ち、それが逆に色気を醸し出している。 大人の男って奴だな。 しかも本物。 何故、男が春を拾ったのかは分からないが、例え今逃げれたとしてもきっと捕まるような気がして春はそのまま車の小さな振動に体を預けて目を閉じる。 疲れ切った心と体はすぐに意識を手放した。
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