第1話 ジジイとプリキュアの長い付き合い

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第1話 ジジイとプリキュアの長い付き合い

 孫娘が幼い時、プリキュアに夢中だった。  そんな「じいじ」は、日本中に掃き捨てても掃き捨ててもまだ涌き出るくらいいるだろう。俺もその一人だ。  初めて耳にした時は上手く聞き取れず、ぷいき屋と呼んでいた。人語を解する不可思議な小動物がぷいきという種族なのか、少女たちが使う魔法がぷいきというものなのか分からないが、とにかく、俺の中では八百屋・魚屋の並びのぷいき屋という理解であった。とはいえ、孫に嫌われたくない模範的なじいじだった俺は、テレビのオープニング画面で文字情報を目にしてからは、さりげなく発音を訂正した。多分、当時の孫は幼すぎて気が付いていなかっただろう。  そんな孫も俺をじいじと呼ばなくなって久しい。金か物が欲しい時だけ、おじいちゃぁん、ときたものだが、俺は今や年金暮らしでさしたる蓄えもない。のらりくらりかわしているうちに、おねだりの頻度すら減り、今では正月のお年玉をせびりに来るだけだ。  額は少ないかもしれんが、金をもらっておいて舌打ちするな!年金暮らしの年寄りが、発売されるたびにiPhoneの新機種を買えると思うなよ!お前の頭の毛にパーマかけてまでストレートにする意味があるとは思えん!中学生がバカ高い化粧品を塗りたくる必要はない!  おっと、いかん。血圧が上がる。  とにかく、俺は既に孫にとって理想的なじいじではない。孫が可愛くないわけではないが、腹立たしいことの方が増えてきた。向こうも、俺の無理解、無神経さに辟易していることだろう。顔を合わせる機会が減って、相互に丁度良い。  だから、もう俺には孫娘のことは分からない。孫も俺のことは理解していないだろう。  そう、俺がいまだにプリキュアを観ていることを、孫は知る由もない。
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