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一
↓青森駅(フリー写真) 青森駅前から徒歩十分ほどのところに『HOTEL AOMORI』という十三階建ての観光ホテルがあります。レストランでは大間町直送のマグロ料理が手頃な価格で味わえるというので、食事だけ利用する客もたくさんいます。
岐阜県下呂市県立金山山岳高校一年の日下健くんは、十月の連休を利用し、ひとりで青森を訪ねました。
だって青森には婚約者がいるのです。
青森県警察本部捜査一課の三枝彩良刑事、二十七歳。ふたりが生れる前のこと。ふたりの祖父が話し合って決めた婚約でしたが、小さなころから仲良しで、青森県と岐阜県、遠距離恋愛、年の差恋愛のふたりです。
そればかりではありません。青森で起きた難事件をいくつも解決。ちょっとした「みちのくの有名人」でした。
今夜ふたりは、『HOTEL AOMORI』でマグロづくしの晩餐を楽しむ予定でした。昨夜から列車を乗り継ぎ青森に到着した日下くんは、疲れた様子も見せずにホテルへ急ぎました。
何しろ、大好きな彼女に会うのですからね。
賑やかな駅前通り。『HOTEL AOMORI』のネオンサインを見つけて駆け寄ると、出入口に向かって階段を駆け上がります。
一瞬の後、
「ワワワワッ」
思わず悲鳴をあげていました。足が滑って大きく前のめりになったのです。何とか踏みとどまりまり、階段を調べてみると、お酒かジュースがこぼれた痕が広がっていました。ホッとため息をついて出入口の自動ドアの前まで行くと、ドアが開いてひとりの女性が出てきました。
ロングヘアに知的な瞳。冷静で落ち着いた表情を日下くんに向けました。背は高く一m八十cm以上あるでしょうか? ブルーグリーンのタートルネックセーターにスカイブルーのGバンスカート。真っ白でマシュマロのように盛り上がった太腿かひどく印象的でした。大きな脚にはブラックのハシソックスを履いていました。
ふたりは自動ドアの前で顔を合わせました。
一m五十cmと小柄で、おちょぼ口。いつもはにかんだ顔を見せる日下くん。女性は何の興味も見せずに通り過ぎようとしました。
「待ってください」
日下くんが恐る恐る声をかけます。
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