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第2話「は、はい……」
──成人まで残り4日。
この日の朝、アリスは応接間に来ていた。その目の前に座っているのは昨日ソルトとの話にあがっていた王家に継ぐ勢力と王家への忠誠心が高く、堅苦しいハーリス家の長男──イーサ・ハーリスである。
アリスの病気上、両者共々の親が同伴しているが、基本何があろうとも口を挟むことはない。
「こんにちは、アリスさん」
イーサはセンター分けに整えられた髪を少し揺らしながら、その奥に覗く美しい顔に優しい笑みを浮かべて、それに合う優しい声音で挨拶をする。ほとんどの女性はその笑みを見るだけでも、心を動かされるんだとか。
「こんにちは。ファステリア家第一王女のアリス・ファステリアと申します」
アリスは一切の感情も込めずに、淡々と挨拶をする。
イーサの評判を知っている親たちは、アリスの心が動くかもという希望があったが、無念に砕け散る。
イーサは少し考える仕草をし、顔を上げて口を開く。
「父上、ソルト王。少し、2人きりの時間をいただけますか?」
「イーサ。アリスの病態があるんだ。さすがにそれは──」
「……分かった。では外で待っておる」
「お、王よ! ……なるべく手短に済ませるのだぞ」
「ありがとうございます」
2人が応接間を出て、イーサとソルトの2人きりの空間が出来上がる。
「私にはもう感情が残されていないのですから、2人きりはとても窮屈な時間になると考えます」
「僕の心配はしてくれるんだね」
「あくまで客観的な考えに基づく意見です」
「なら僕は人とは少しズレた考えを持っているようだし、大丈夫だね」
「ですから、そういうわけでは……」
するとイーサは席を立ち、アリスのもとに近寄る。横まで来るとアリスの顎をくいっとイーサの方へ向け、至近距離で目を合わせる。
どこまでも優しそうで、裏表の一切ないその美貌は、思わず見入ってしまうものだった。
数秒見つめ合うと、イーサは小さく笑って、応接間の出口に向かった。
アリスもつられて立ち上がり、そちらへと足を向けると、イーサが振り返り。
「困惑。ちゃんとできてるよ」
それだけ伝え、イーサは扉を開ける。
父親に「別れの挨拶も済ませてきたよ」と伝え、2人はソルトに一礼したあと、アリスにも礼をし、そのまま帰っていった。
それを見届けると、ソルトがアリスのもとに駆け寄る。
「……どうだったのだ?」
アリスはもういなくなった廊下を眺めながら。
「──少し、不思議な気持ちでした」
トクン、と小さく鼓動の音が聞こえた気がした。その目には小さな光りが見えた気がしたのは気の所為だろうか。
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