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第一話 俺って最低?①
俺は可もなく不可もない人生を歩んできたはずだった。
バシン
割と人気のある駅前のロータリーに乾いた音が響く。
俺は叩かれた状態のまま目を逸らす。
目の前にいるのは俺よりも頭一つぶん背が低い質素であるがコーディネートが上手な同期の女の子。派手ではないだけで陰キャでもない。
可愛いし人付き合いもいい。
声をかけられているのをなん度も見ている。
彼女と出会った、と言うよりは仲良くなったのは、グループワークの授業で共に行動してからだった。4人、5人のグループに分かれて論文を書く授業がある。
課題はいくつかあったが『夢見川の汚染』を選んだのは、地質学を専攻しているので3年後の卒論で役に立ちそうだったからだ。
5人のグループで夢見川の歴史を学ぶ為に図書館に行き文献をあさって行った。歴史から川周辺の地質、川の水質、地域の下水など調べまるのだが、役割分担を決めた。
一番嫌がる役割があった。
水質の調査だ。
水質調査は実際に川の水を採取して調べる。上流から下流までだ。
「ごめん。俺バイト詰め込んでて」
「あたし…彼とのデートがあってぇ〜」
「僕、川が苦手で…」
なんだ!
バイト…、デート…、最後には川が苦手って。バカにしてるのか?
俺は彼らに文句を言おうと隣に顔を向けた。
隣に座っているのは岩瀬祐美さん。文学部の一年生。岩瀬さんは苦笑いをしていて、彼女も俺に顔を向けた。
俺もつられて苦笑いをした。
まだ夏だから良いが冬だったら、俺も断りたいくらいだ。
水質調査は川瀬だけでなく、中流もとったほうが良いらしい。
川に入るのはもっぱら俺の役目。ジャブジャブ川に入り試験管を上瀬、中瀬、下瀬に入れ最低三本取る。
「取りましたよー」
俺は腕を上げ、岩瀬さんに指に挟んだ試験管を見せる。
「上がって来て下さ〜い」
岩瀬さんは両手を口元に当て声を上げる。
ゆっくり進むがどうしても流れが早いところを過ぎないといけない。
ゆっくり ゆっくり
「あっ!」
バシャン
「工藤君!」
水飛沫をあげ俺は尻餅をつき上から下までびしょ濡れになった。
岩瀬さんは何も考えずに来たのだろう。彼女はバシャバシャ水飛沫を上げながら俺に向かって来た。
「岩瀬さん、あぶ」
「きゃっ」
危ないと言いたかったが、その前に彼女も尻餅をついた。
岩瀬さんも上から下までびしょ濡れになった。
俺と岩瀬さんは顔を見合わせて苦笑いをした。
俺と岩瀬さんの距離がぐーんと縮まった。今年の夏は暑い季節になった。
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