身を切られるようにツライ想い

5/5

35人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 バス停から離れていないせいか、一気に歩道を歩く人が増えた。  私はうつむき圭斗の右手を握ったまま、動けないでいる。  皆、私達を避けて歩く。  ふぅっ…と圭斗の小さなため息が聞こえた。    人通りが途切れた頃、ふと圭斗の左手が私の真横でグーパーを繰り返し、ウロウロいる事に気がついた。  その瞬間、その圭斗の手が私の頭を撫で、自分の胸に引き寄せた。 「すっぴんも悪くないけどな、俺を誘うなら口紅をキレイに引いてからにしろ。せめてもの礼儀だろ」  ……確かに。一度は振った相手に、ボロボロの状態で誘うなんて失礼だ。  ―――私の事好きなんでしょう。光栄に思いなさい。  って言ってるみたいで、自意識過剰にも程がある。  私は圭斗の胸の中で、申し訳なささと恥ずかしさで赤面していた。 「今日はもう帰ろう。今年も『紅葉パフェ』を逃すことになるけど…来年こそ行こう」  圭斗がぎゅっと私の頭を片腕で抱きしめる。  圭斗の胸に顔を埋めることになっている私は、どちらのかわからない大きな鼓動を耳にする。  優しい、どこまでも優しいな圭斗は。  来年の話をする事で、私の事を嫌いになったりしないって伝えてくれる。 「うん…、ありがとう、圭斗。ごめんね……」  圭斗の手を離して、ぎゅっと抱きしめたい気持ちをグッと我慢した。  今の私じゃダメ。  ちゃんと気持ちに整理をつけてからにしないと。  でもどうやって?5年間消化不良の末、拗らせた相手よ?  失恋決定の相手に告白出来るほど、私のメンタルは強くない……。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加