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私のお姉ちゃんは私の血と汗と涙の結晶です。
これから書き留めるのは、今リビングで向かい合って私の目の前に座っている川名友梨香お姉ちゃんを取り戻すために血と汗を流して、最後に涙も流した苦労話です。
私は本業はコードを書いているITエンジニアで、会社からの帰り道や時間が空いたときに秋葉原に通っています。そして中学時代からの中古パソコンマニアで、それ以来ジャンクショップに入り浸っていました。その後は人間そっくりになって広く使われるようになったロボットに興味を持ち出して、高級車くらいの値段がする新品ではなくジャンク品を買い集めていました。当時は単に組み立てて動かすのが目的で、それがすんで再生した彼女たちの「里親」を募っていたのです。それから時間がたって、お姉ちゃんに病気が見つかってから看病のためパソコンとロボットいじりはしばらくお休みにしていました。その後彼女の病状が悪化したときに当時の技術の粋を集めた性格スキャンや複製目的での声帯スキャンをしてもらったのです。
大好きだったお姉ちゃんを亡くしてから私は再び秋葉原でジャンク品や中古部品を約1年書けて買い集め、空いていた部屋をラボにして、腕によりをかけてそして私の力のすべてをつぎこんで一体のロボットを組み立てました。その途中でアンドロイド技工士にスキャンデータを送ってフェイスパーツと声帯の制作依頼をして、それが揃ったところで組み立てに取り掛かりました。完成後、組み立てた彼女にパソコンから伸びるUSBケーブルを後頭部のうなじにあるコネクタに挿して体内に内蔵されている記憶装置にマザーボードメーカー提供のユーティリティソフト経由でOSを入れて、最初の試運転をしました。このときに致命的なエラーが発生するなどといった異常はなかったので、それから何日か動かした後性格スキャンデータの他、生きていた頃の記憶をデータ入力したり、ビデオカメラで撮った思い出の動画のインストールをやりました。でもデータがまだまだ足りなくて過去の記憶に基づいて同じ一日を繰り返すように動いて生活しているだけで、自分から成長するまでにはなっていませんでした。つまり二五歳位の見た目で体を作ったけど実際は高校に入りたての少女のような行動をしていました。その一方発声リハビリは予想より順調でした。私は必死になってスキャンデータを追加したり思い出せるだけのお姉ちゃんの行動を連日入力し続けました。なんとかならないかなと考えるうちに月日は過ぎていきました。もちろんGitHubやQiitaといったところでの情報収集は欠かしませんでした。
そんなある日、彼女は突然、おもむろに、何の前触れもなく病院で亡くなるまぎわのときのことやほんの少しだけどあの世のことについて話してくれました。私の悪戦苦闘の日々はひとまず終わったのです。
「いわゆる死後の世界って大陸の真ん中の大平原に二百年くらい前にできた入植地だった村というか広大な田舎みたいなところだったので暇で暇でしょうがなかったわ。村には五、六軒の民家があって空き家だったその一つにいさせてもらっていたわ。そこの中心には長く使われていない駅舎があって一体どこへ伸びているのか、それ以前に動いているのか廃止になったのかも分からない、真っ赤にさびたヘロヘロの線路が通っていて横には村のシンボルとして大事にされてはいるけどぼろぼろになったカントリーエレベーターが建っていたわ。近くを回っても何も刺激はないし」
今思い返してみてなんで死後の世界がそれと聞いて真っ先にイメージしそうな日本の里山とかじゃなくてアメリカやカナダの西部のような風景だったのか突っ込みたくなりましたが、きっと「わたしだって知らないわよ」という答えが返ってくるのがわかり切っているのでやめました。思い当たるところは……ああっ、そうだった。私がカナダ留学しているときに行ったサマーキャンプの写真を棺の中のお姉ちゃんが着ていたシャツの胸ポケットに入れていたんだった。
「この体、わたしが昔どこかの電気屋に転移してこっそり入ってみた当時のロボットと違ってなかなかフィット感や使い心地がいいわ。腕や指の動きがかなりなめらかだよ」
五年ぶりに本物のお姉ちゃんに会えた瞬間でした。
「お姉ちゃん、戻ってきてくれて本当にありがとう。私も今まで寂しかったよ。これが今できる私の全てだよ。両腕だけはなんとか奮発して新品買って取り付けたし、CPUも中古だけどグレードアップしたから。これからは私がちゃんとメンテナンスするからね」
私は涙を流しながらお姉ちゃんに言いました。
「わたしもこの体にすんなり入れちゃって真奈香と一緒に過ごせて嬉しいわ」
私も同じく感じました。そして彼女はしばらくたってから大学に入り直しました。そんな感じで私たちの人生の新しい一ページが始まりました。
「でも、わたしに入っているバッテリーは中古が混ざっているから夕方になったらもうお腹ペコペコで全速力で歩けないわ。毎日一晩ベッド横のコンセントにつないだUSBケーブルをうなじの下のコネクタに差して充電しているのに。でも真奈香がわたしの体を作るため、お金のない学生時代にネットオークションで買ったものだと思うから仕方がないわ」
「ごめんお姉ちゃん。次のボーナスが出たら新品のバッテリー買うから。その次のボーナスで食事消化ユニット買うね。今は圧電素子から出る微細電流による味付きとは言えもともとは歯ぎしり防止用だったアンドロイド専用ガムかんだりとか排熱用の水とかしか飲めないのできっとつらい思いしていると思うからね」
「ありがとう。バッテリー入れてもらったら早速ランニングしたいわ。食事消化ユニットは別にいいわ。あれ超小型焼却炉と発電機のセットで電子部品に影響しないように厚くコーティングしてある防火耐熱材の分だけ重くなるからね。あと少しなにか食べただけでしばらくの間口を開けて湯気や煙を出さないといけないし排熱のためにたくさん水飲んで頻尿になるわ」
「あと、便器をそろそろステンレス製のロボット対応型に買い替えないと。お姉ちゃんから出るものは百度近くてうちのだと割れちゃうからお風呂でしてもらってるの」
「真奈香、そんな恥ずかしいことを言ってさらすのはやめてぇ!」
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