ありがとうを君へ

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「どうしたの?」 「………」  近寄って話しかけるが女の子は俯いてしまう。懐かれたのだろうか。でも特にたいした事はしていないし、俺は子どもに懐かれやすいわけではない。 「おうちに帰らないと」  ゆっくり言葉を繋げると、意を決したかのように女の子は顔をぐりんと上げた。真っ黒な瞳が印象的だ。 「じゃあいっしょに帰って」  唐突なお願いの意味がわからない。見知らぬ女の子はじっと俺を見つめている。 「え? なんで」 「ママになって」  ママ…。お母さんがいないのだろうか。そういう家庭も珍しくはないが、俺は男だ。女性に間違われた事は一度もない。この子は何か勘違いをしているのかもしれない。 「あのね、俺は…」 「いこ!」  しゃがんで目線を合わせようとしたところで手を引かれた。小学校低学年くらいに見えるが、手を引く力は強い。ぐいぐい引っ張られて俺は、どうしたものか、と思いながらそのまま引かれて行ってしまった。先を歩く女の子のくせっ毛が歩く度に揺れるのをぼんやり見つめる。何をしているんだろう、俺、と思いながら。
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