ありがとうを君へ

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ありがとうを君へ

 俺は流されやすい。自分でもわかっている。これまでずっと簡単に流されてきた。だから大学卒業とともにそんな自分も卒業しようと決めた。…はずなのに。 「俺このまま今の会社にいたら成長できないと思う」 「成長…」 「俺は変わりたい」 「変わる…」  高校からの友人の言葉に流されてしまった。俺も変われるのではないかと思い、友人が会社を辞めるのと同時に、大学卒業後一年働いた会社を辞めた。後から知った事だが、友人は次の会社が既に決まっていた。俺はそんな事は何も考えず、ただ流されるままに辞めてしまった。  ()()(さき)(こう)、二十三歳。流されるだけの俺は自ら無職になった。  そこから新しい就職先を見つけるのに面接を受けるけれど、特に何か秀でたものもない俺を採用してくれるところはなかった。ちょこちょこ貯めてきた貯金を切り崩しながら生活する日々。卒業しようと思ったのに、流される性格は全く変わっていなかった。貯金はそれなりにあるから家賃や生活費に困る事は今のところないけれど、無限にあるわけではない。それにいつまでもふらふらしているわけにもいかない。早く新しい仕事を見つけないといけない。そんな事を考えながらコンビニで今日の晩御飯を買う。すぐに就職先は見つからなさそうだし、バイトするか…と“急募”と書かれたコンビニの求人貼り紙を見ながら考えていると、背伸びをして高い棚の商品を取ろうとしている女の子が目に入った。 「大丈夫? 代わりに取ろうか?」  声をかけるとその子はゆっくり振り返り、そして小さく頷く。目当ての商品を取って渡すと大きな声で、ありがとうと言われた。俺はそのままコンビニを出ようとしようとした…が、なぜか会計を済ませたその女の子がついてくる。家が同じ方向なのかと思い、そのまま歩き続けたが、いつまでもついてくる。大学時代から住んでいる、見慣れたアパートの前まで来てもまだついてくる。俺が立ち止まると女の子も歩みを止めた。
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