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◇◆◇
「うん……わかってる、うん…」
「…?」
話し声に目を覚ますと、少し離れたところに靖史の背が見える。
誰かと通話をしているようだ。
綺麗な背中にひっかき傷がいくつもできていて行為の激しさを思い出す。
なんとなく、ベッドの空いたスペース…靖史のいた場所に触れてみる。
少し温もりが残っているシーツに頬ずりをして、もう一度瞼を下ろす。
寂しいな。
そう小さく小さく呟いて、居心地の悪さを覚える。
やっぱり俺じゃない。
でも俺だ。
髪を撫でられる感覚に瞼を上げると靖史の微笑み。
「どうしたの、潤哉。『寂しい』なんて初めて言ったね」
「……そうだっけ」
ごまかすけれど、確かにそんな言葉を口にしたことはない。
そう感じたことさえなかった。
「通話は?」
「終わったよ。父さんから」
F社の社長から…。
なんだろう。
「次の日曜日、家に顔見せに来いって催促。会社で会うことあるんだからって言っても、父の日くらいプライベートで顔見せろって」
「……そう」
じゃあ今度の休みは一緒にいられないんだ。
すぅっと冷たい風が心に一筋吹いた。
「潤哉も一緒に行こうよ。きちんと紹介したい」
「は?」
「俺が心から愛してる、一生そばにいる人だって」
「…だめだろ、それは」
俺達が付き合っていることは社長も知っているけれど、一生となると話が別だろう。
靖史が俺の左手を取り、薬指に歯を立てる。
「だめじゃないよ。潤哉がこの指に、俺が贈るもの以外を着けることはないんだから」
「……」
「ねえ潤哉、もっと欲しい…足りない。潤哉の全部が欲しい」
靖史が覆いかぶさってきて、肌に口付けていく。
どうしよう…身体より心が疼く。
「……俺にも」
「ん?」
「俺にも、もっと靖史を教えてくれ」
噛み付くようなキスに食い尽くされる。
熱い手が肌を滑るので、俺も靖史に触れる。
「潤哉に望まれるってすごい幸せ」
「そうか?」
「そうなの。ねえ潤哉、俺を愛してくれる?」
「……」
愛……難しいことを簡単に求めてくるな。
でも、応えたいと思うのはきっと…。
「……少しずつな」
靖史の幸せな笑顔が見たいから。
優しいにおいに包まれて、その背に腕を回した。
END
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