アリスショッピングモール

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アリスショッピングモール

社会人・美形×平凡 有栖川和沙(受け)が休日に買い物に出かけた“アリスショッピングモール”。 ショップでパーカーを手に取ったらパーカーが大きくなったり小さくなったり。 壁は飛び出して引っ込んで、天井は高くなって低くなって床は波打つ。 不思議な空間で非現実的なイケメン・佐伯智(攻め)に出会います。 ***** 久々の休み。 俺、有栖川(ありすがわ)和沙(かずさ)は買い物のために近所にできたばかりの“アリスショッピングモール”に来た。 入口で謎のチョーカーを着けられて謎の端末を渡された時点でおかしいと思って帰ればよかった。 でもなんかゲームみたいで楽しそうって思っちゃったんだ。 進んでいくと、チョーカーと端末以外は普通の広いショッピングモール。 服を買いたいなと思っていたのでメンズのファストファッションを取り扱う店舗に入った。 パーカーを手に取ったら、なぜかパーカーが大きくなったり小さくなったりする。 「????」 なんだこれ。 そしたらポケットに入れておいた端末が震えた。 さっきは画面が真っ暗だったのに、赤い点がひとつ、真ん中で点滅している。 とりあえずパーカーを、高さが高くなったり低くなったりしている棚に戻して店舗を出る。 と、壁が飛び出してきたり引っ込んだりする。 なんだこれ。 波打つ通路をゆらゆら歩いて入口に戻ろうと来た通路を戻ったはずが、戻れない。 通路の周りがさっきと違う。 入口がない。店舗がずーっと並んでる。 なんなんだこれ。 大きくなったり縮んだりしているベンチに座ったらベンチがひとり用サイズになり、なぜか手にカップがある。 すぐ横の空中からとぽとぽとなにかがカップに落ちてきて注がれる。 紅茶? もうなんかわけわかんな過ぎてとりあえず紅茶を一口飲む。 そしたら端末がまた震える。 中心の止まっている赤い点に、画面上方からもうひとつの赤い点が近付いてくる。 なんだ? そしたら目の前にイケメンが現れた。 首にチョーカーをしていて俺が渡されたのと同じ端末を持っている。 俺と同じ、ここに買い物にきた客か? 「あ、人?」 イケメンが俺に聞く。 とりあえず俺は人なので頷く。 「よかった。そっか、この赤い点って人か」 「?」 端末を見ながらイケメンがひとりで納得している。 俺も端末を見ると、止まっていた中心の赤い点の隣にも赤い点が止まっている。 「えっと」 「俺、佐伯(さえき)(とも)」 「有栖川和沙です」 「アリスショッピングモールにアリス?」 「アリスって呼ばないで」 小さい頃からあだ名は“アリス”。 女の子みたいなあだ名が大嫌いだった。 でもいつでも“アリス”。 会社でも“アリス”。 「かーわいい」 俺の髪をぐしゃぐしゃ撫でるイケメン…佐伯さん。 その間も壁は飛び出して引っ込んで、通路の床は波打って時折大きな波がくる。 天井が下がってきて頭ぎりぎりになったり、すごく高くなったり。 佐伯さんが座るとベンチがふたりサイズになる。 ほんと、なんなんだこれ。 そしてやっぱり佐伯さんの手にもカップが。 とぽとぽとぽ。 紅茶が注がれるのを見つめる。 「俺達が大きくなったり小さくなったりしてるわけじゃなさそうだね」 頭ぎりぎりになる天井を見ながら佐伯さんが。 「なんで?」 「だってこのチョーカー、サイズ変わってない」 「あ…」 俺の首に着いているチョーカーを佐伯さんが顔を近付けて見る。 近い! 男相手なのに、こんなイケメンを間近で見る事なんてないからどきどきしてしまう。 「佐伯さん、近い!」 「智でいいよ」 「智、近い近い近い!」 息が触れてる。 鳥肌が立ってぞわぞわする。 「アリスは敏感なんだ?」 「だからアリスはやめて! あと離れて!」 「だって俺、目悪いからよく見えないんだもん」 「メガネとかコンタクトとかは?」 とにかく離れて欲しい。 でも智は俺の首に顔を近付けて、じっとチョーカーを見ている。 かと思ったらふぅっと首に息を吹きかけられた。 「ひっ!」 「はは、かわいい」 なんのつもりだ。 わけのわかんないショッピングモールより智が怖い。 「普段はメガネかけてるけど、今かけたら度がころころ変わりそうだから目に悪そうでかけられない」 「……」 確かに。 顔を近付けていた智がやっと離れる。 「発信機ついてるっぽい、このチョーカー」 「発信機?」 「うん。端末の画面の点滅と一緒に点滅してるなんかがついてるから、それで俺達のいる位置がこの端末に表示されるんじゃないかな」 ふたりでカップの紅茶を飲む。 紅茶の香りが形になってカップの周りをゆらゆらしている。 ベンチでのんびり紅茶。 天井は高くなったり低くなったり。 壁は出っ張ったり引っ込んだり。 床はうねうね波打って。 並ぶ店舗は陳列されたものが大きくなったり小さくなったり。 なんなんだこれ。 「智は落ち着いてるね」 「アリスも十分落ち着いてるでしょ。こんな状況でどこから出てきたのかもわからない紅茶まで飲んで」 「いや、もう諦め」 「なるほど」 智が声を上げて笑う。 端末を見ると赤い点がふたつだけ。 俺と智しかいないって事? 「な、せっかくだから色々見に行こう?」 「え?」 この状況で? ていうかこの床歩いてたら酔いそう。 そんな事を思っている俺に対して、智はベンチから立ち上がって俺の腕を掴む。 引かれるままにベンチから立つとベンチがまた大きくなったり縮んだりし始める。 手にしていたカップが消えた。 すげ。
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