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智が俺の手を握って波打つ通路を歩き出す。
「手、離してよ」
「やだ。はぐれたら二度と会えないよ、絶対。見つけた獲物は逃がさない」
「獲物って」
智の手、あったかい。
繋いだ手から鼓動の速さがバレないかと色々どきどきしながらふたりでひとつずつ店舗に入っていく。
「わ、モックがスイカになった」
スマホショップに入って智が陳列されているモックを手に取ったらスイカになった。
なんでこの冬場にスイカなのかわからないけど、それ言い始めたらこのショッピングモール自体の存在がわからないだろってとこに行きついちゃうから、深く考えるのはやめた。
智がスイカを置くとモックに戻った。
隣のモックを俺が手に取ると桃になった。
食べられるのか?
なんとなくつついてみると皮が自然に向けて、一口サイズになった。
「………」
智がそれをひとつ抓んで俺の口に押し込む。
甘い。
「モック? 桃?」
「桃」
「へえ」
智も自分の口に一口サイズの桃を放り込む。
「ほんとだ」
ふたりで色んなショップを見て歩いていたら、なんだか不思議と楽しい。
この非現実的な空間が、非現実的なイケメンが、俺の脳みそ蕩かしてぐつぐつにしてく。
手を繋いで智と歩く。
波打つ床も、なんか足取り軽く歩いてしまう。
行っても行っても店舗が並ぶ。
戻ってみるとさっきと違う店舗。
端末の画面にはふたつの赤い点が点滅しながら移動している。
寝具ショップに入ると、様々なベッドが踊ってる。
智が俺の手を引いてそのベッド達の中に飛び込むと、嘘のような超特大ベッドになる。
ぽよんぽよんでめちゃくちゃ寝心地がいい。
ふたりでベッドに寝転がって天井が下りてきたり上がっていったりするのを見つめる。
なんとなく智のほうを見たら、智は俺を見ていた。
「智?」
「アリス、かわいい」
「アリスはやめてって」
智が身体を起こすので、俺も身体を起こそうとしたらぐっとベッドに背を押し付けられた。
「??」
智がなんの躊躇いもなく、涼しい顔で俺の履くジーンズと下着を脱がす。
「???」
なにが始まる?
ていうかこの状況なに?
智の頭ぎりぎりまで下りてる天井や飛び出したり引っ込んだりしている壁も周りでぐるぐる踊ってるベッドもわけわかんないんだけど。
智が雨を受けるように手のひらを上に向けると、また空中からなにかがとぷとぷと落ちてくる。
紅茶じゃない。
透明だ。
ていうか俺、なんでこんな格好にされてるの?
非現実の空間にい過ぎて色々麻痺してるのか、なぜなぜなぜがうまく考えられない。
智が俺の足の間に手を滑らせる。
ぬるっとした感覚。
さっきのローションだったのか。
「えっ!?」
ローション?
それってつまり。
慌てて置き上がろうとするとなぜか起き上がれない。
首のチョーカーがベッドにくっついてるみたいに、首が動かせない。
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