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遼一と日向
社会人・美形×平凡
遼一(攻め)は日向(受け)が大好きです。
でも日向は自分の中にある、ずるくて汚い感情にもやもやしていて…というような話です。
※すぐ離しますが、突発的に攻めが受けの首を絞める描写があります。苦手な方はご注意ください。
*****
「日向、飴食べる?」
「ん、食べる」
ガリッと飴に歯を立てる音。
あー…と思っていたら遼一の唇が重なった。
唇の隙間から、舌で飴がさし込まれる。
俺の口の中に移った半分の飴は既に少し溶けている。
「オレンジ」
「うん」
「お前、キスしたかっただけだろ」
「そんな事ない」
すごい笑顔で俺の唇をなぞる遼一。
ほんと、かっこいいんだけどさ。
俺と遼一は決して付き合ってはいない。
でも遼一は俺が好きだ。
俺は男が好きなわけではないけれど、遼一は友達として好き。
大学時代、俺は遼一以外の友人ができなかった。
遼一は…あとから知った事だけれど、わざと俺以外に友人を作らなかった。
それくらい出会った時から俺に夢中になったと言っていた…なんでだ。
なんかずるずる仲良くしてて、でも俺が好きだと言ってきたところでは『なぜ?』と思った。
特段俺は見た目がいいわけではないし、性格もいいとは言えない。
大学四年間で遼一以外友人ができないくらいのぼっち気質。
でも遼一は俺に好きだ好きだと言ってくる。
大学卒業後、バイトしている料理屋の社員になると決めていた俺の近くで働きたいと、俺の働く店と同じビル内のちょっとお高めのレストランの社員になった遼一。
いいのかそれで、と思っていたんだけれど、決めたら頑として動かない意志の強さにびっくりした。
押されて押されて負けた、と言うか絆されたと言うか…キスだけは許してしまった。
こんな俺でもキスが初めてじゃなかったのは遼一には予想外だったらしいけど、それでも顔を合わせるとキスする口実を作っては唇を重ねてくる。
飴もキスの口実だったに違いない。
そんな曖昧な関係なのに俺達は一緒に住んでいる。
勤務先が同じビルだからルームシェアしたら家賃とか安く済むんじゃね?って言われて、それいいなって思ってOKしてから思い出した。
こいつ俺が好きなんじゃんって。
引っ越して一週間は、いつ俺の部屋に襲いにくるのかとびくびくしてたけど、遼一はなにもしてこなかった。
そしたらなんか安心しちゃって、遼一の部屋でふたりでごろごろする事が増えた。
今日も仕事が終わって帰って来て、ふたりで遼一の部屋で過ごしていて、それで飴食べるかって聞かれて…キス。
「日向はまだ俺を好きにならない?」
「好きだよ。友達として」
「そうじゃねーんだって」
わかってる。
正直、付き合ってもいいかなって思った事もある。
でも踏ん切りがつかないって言うか…なんか怖気づいて頷けない。
それに、遼一は俺を“抱きたい”らしい。
俺は男に抱かれる勇気がない。
女を抱くのと絶対なにもかもが違う。
想像もできない。
遼一に抱かれる?
そこまで遼一が好きなのか。
そして、きちんと受け入れられるのか。
わからないから逃げ続ける。
「明日も早いから部屋戻るわ。遼一も寝ろ」
「日向の事考えながら寝る」
「やめろ」
やめて欲しいのか、それでいいのか。
遼一といると色々わからなくなる。
でも、遼一が俺を好きだと言うのがどこかで心地好いと思っている自分がいるのは確かだ。
遼一は見た目がいい。
イケメンかそうじゃないかと言われたら、絶対全員がイケメンだと答える。
社交的な性格で、なんて言うか…俺と正反対で、男も女も寄ってくるタイプの男。
そんな男が俺を好きだ好きだと言ってくるのははっきり言って気分がいい。
なんて、そんな事を思っている自分が汚くてどんどん嫌いになっていく。
遼一が今の見た目じゃなくても友人として好きなのに、まるで見た目で判断しているような自分が醜くて汚らしく感じる。
俺は遼一に向き合う前に自分に向き合う必要がある。
「おやすみ」
遼一のおやすみは優しい。
こんな俺に、毎日変わらず微笑んでくれる。
遼一は俺の汚さに気付かないからそんな優しく笑える。
俺がこんなに自分勝手で醜い思いを持って遼一のそばにいるって知ったら絶対離れていく。
だから言えない。
そう、一番ずるいのは、どうやってでも遼一を離したくないところ。
俺は唯一の友人を手放したくなくて、でも抱かれるのは怖くて。
なんてずるくて自分勝手で嫌な人間…。
「おやすみ」
◇
明日も遼一におはようって言うんだろう。
そしてまたおやすみって言って、その次の日にはまたおはようって言って。
「………」
あれ、俺達の関係っていつまで続くんだろう。
このまま俺がなにも答えないでいたら、途切れて消える事もあるんだろうか。
ずるずると引き延ばしても、遼一は俺を好きだって思い続けてくれるんだろうか。
それとも、いつかは遼一は別の誰かを見る事もあるんだろうか。
その時、俺はまた独りになる…?
「うわ」
俺、ずる過ぎないか。
俺が独りになりたくないからって遼一を縛っているだけじゃないのか。
独りにならなければ、遼一じゃなくても…いい?
…やっぱり俺は自分に向き合わないといけない。
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