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◇
「りょういちー」
「なに」
いつも通り、仕事を終えた俺は帰宅してシャワーを浴びて、すぐに遼一の部屋に行く。
「てかお前、相変わらずこんな時間まで仕事してんのか」
「しょーがねーだろ。任されるんだから」
確かに遅いかもしれないけど、店長に仕事を任されたらすぐに帰るなんてできない。
あれもこれもって色々詰め込んでたら、いつの間にか帰るのはいつでも終電ギリギリ。
それに対してスマートに仕事をこなす遼一はいつも俺より先に帰ってる。
仕事の体制の違いもあるんだろうけど、俺より遼一が遅く帰るような事はない。
俺はやっぱり手際が悪くて、店長からなにかを任されてもきちんと応えられなくて。
仕事もプライベートも、なにひとつうまくできない。
「で、なに?」
「なにが?」
「呼びかけてきたの、日向のほうじゃん」
「ああ…うん」
そうだ。
聞きたかった事がある。
あれを、聞きたくて。
「遼一はさ、」
「なに?」
「なんで俺が好きなの?」
遼一が固まった。
でも聞きたい。
遼一がなんで俺を選んだか。
本当に俺でいいのか。
なんでそこまで俺がいいのか。
俺になにを求めているのか。
「教えなーい」
はぐらかそうとする遼一の手を取る。
びっくりした顔の遼一を正面から見つめる。
「教えて」
俺の目を見た遼一が、俺が握った手をぎゅっと握り返す。
「…教えたら応えてくれんの?」
「え?」
「俺の“好き”に応える気なんてないくせに…」
「…それは」
すごく哀しそうな顔。
俺のせい、だよな。
「いいよ、もう」
吐き捨てるように遼一が言う。
「…遼一?」
「―――好きになってごめん」
遼一はそのまま部屋を出て行ってしまった。
なんで『ごめん』?
俺を好きになった事、後悔…してんの…?
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