遼一と日向

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◇ 「三週間」 遼一が帰ってこない。 どこ泊まってるんだろう。 連絡とろうとしても既読無視。 もう三週間も帰って来ない。 なんで? やっぱり俺が原因? いや、それ以外にない。 覚悟がないのに、遼一を中途半端に受け入れようとした事に気付いた…? 「違う…」 違う。 違わない。 違う…違わない。 わからない。 覚悟は確かにできてない。 でも。 「遼一を拒んでるわけでもない…」 うまく伝えられない。 遼一を好きになれるなら、遼一を受け入れられるなら、解決するのか。 でもそんな気持ちで受け入れていいのか。 わからない。 でも、やっぱり遼一を手放したくない。 俺は自分が傷付くのが怖いだけ、じゃないのか。 「遼一…」 この迷路から救い出して。 独りじゃ抜け出せない。 遼一、お願い…。 「そばにいて…」 ずるい俺。 どうやっても遼一を手放さない俺。 どうやってもなにしてでも遼一に好きでいてもらいたい俺。 それなのに遼一の気持ちに応えようとはしない。 こんなずるいやつ、誰も相手にしねーよ…。 「……」 俺が動かないと、いけないのかもしれない。 ◇ 「で、来たのはいいけど…」 店長に頼み込んで休みをもらって、遼一の働くレストランに来た。 ランチタイムならお手頃な値段で食事ができるから、ランチタイムに。 ディナータイムは客単価最低八千円って話だから絶対無理。 そう、来たのはいいんだけどまさか遼一を指名するわけにはいかない。 そういう店じゃない。 だから席から店内を見回して遼一を探す。 でもいない。 休み…? ちょっと落ち込んできたところで遼一の姿を見つける。 心臓がどくどく言う。 三週間…正確には23日ぶりの遼一。 ちょっと痩せた? 目でずーっと動きを追っていたら俺の席に来た。 「お待たせいたしま…」 「遼一…」 「………」 びっくりしてる。 一瞬固まって、それからなんでもないようにランチプレートを俺の前に置く。 そのまま店員の顔をして戻ろうとする遼一の背中に一言。 「待ってるから」 それだけ言った。 言えた。 ◇ それから一旦自宅に帰って、レストランの閉店時間に合わせてもう一度出かけた。 すっごい寒いけど、とりあえずビルの関係者通用口の前で待つ。 遼一の働く店の従業員達がちょこちょこ出てきたけど遼一は出てこない。 なんで? まさかもう帰っちゃった? 俺達の部屋に? …違うどこかに? 不安になっていたら遼一が出てきて俺を見つけてびっくりしている。 「なにしてんの」 「待ってるって言ったじゃん」 「風邪ひいたらどうすんの?」 「そしたら看病して」 遼一が俺の手を取ってずんずん歩いて行く。 無言で歩いて、駅まで行って電車に乗って、いつものルートを通って帰宅した。 ふたりで帰るのって新鮮っていうか、ほとんどないからどきどきする。 「やっと帰って来てくれた」 「え?」 「待ってたんだよ、これでも」 「……」 言いたい事いっぱいあるけど、帰って来てくれた嬉しさで霞んでいく。 「ずっとどこ泊まってたの?」 「…ネカフェとかたまにビジホとか」 「そんなんで身体壊してない?」 「へーき」 素っ気ない返事。 帰ってくるの、嫌だったのかな。 嬉しさがどんどん削られて減っていく。 「そんな顔すんなよ」 「……」 「別に日向が嫌になったわけじゃない」 「じゃあなんで帰って来なかったんだよ」 「それは…」 言い淀む遼一をまっすぐ見つめる。 その視線から逃げるように顔を背けて遼一は溜め息を吐いた。 「…ただそういう気分だっただけ」 「はぐらかすな」 「……」 「ちゃんと教えて」 振り返った遼一はすごく冷めた目をしている。 怖い。 そう思った時にはソファに押し倒されていた。 冷たい瞳の奥には感情が見えない。 「日向が無防備に俺を信頼してる事にもう耐えらんねーんだよ」 「…遼一?」 「あんな信頼しきった目して、『なんで好きか』なんて聞かれたらほんとの事なんて言えねえよ」 「ほんとの事…?」 遼一がまた溜め息を吐く。 それから強引に唇が重なって舌が滑り込んできた。 苦しいくらいのキスに息が上がり、遼一の胸を叩くとようやく解放された。 「なんで…」 「日向はすげーよな、付き合ってるわけでもない男のキス、簡単に受け入れて」 「遼一…?」 「キスする度にお前をめちゃくちゃに犯したくてどうしようもない俺の気持ちなんて、全然わかってねーだろ」 キスはいい?って最初に聞いてきたのは遼一だった。 何度も懇願されて根負けした俺は、キスだけならって答えた。 「…日向、無意識で俺を煽って楽しい?」 「そんなつもりは…」 「ならそういう目すんな!」 首を掴まれて、ぐっと圧迫される。 苦しい。 でも怖くない。 なんでかわからないけど、遼一に抱き締められてるようでほっとする。 俺の表情を見て我に返ったのか、遼一が慌てて手を離す。 「…ごめん」 「ううん、へーき」 「やっぱ、もうルームシェアもやめたい…もう限界」 泣きそうな顔。 …どうしよう、嬉しい。 こんなに俺を求めてくれていて、こんなに俺の事で心を乱してくれている。 「遼一が言い出したのに、逃げんの?」 「…逃げるしかねえだろ。日向を俺の部屋に閉じ込めて、俺の気持ちに応えるまで抱き続けて壊す事しか考えらんねえんだよ、もう」 あぶない男。 でもそんな遼一をやっぱり手放したくない俺のずるさと、どっちが勝つだろう。
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