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重たい空気を纏ったままビジホの部屋に戻る。
当然の事ながら武登はいない。
溜め息を吐きかけて呑み込む。
買ってきたコンビニ弁当を食べていたら涙がこみ上げてきた。
伝う涙は堪えられなかった。
時計を見ると武登はまだ仕事中。
仕事中じゃなくたって連絡なんて絶対したくない。
それなのに、武登の勤務先のコールセンターに客のフリをして電話をかけてしまう。
コール音が鳴る。
こんなの、一発で武登が出るわけないし、出たところでプライベートな事なんてなにも話せないし、無駄なのに。
『大変お待たせいたしました。〇〇銀行××専用ダイヤル、担当梶原でございます』
武登だ。
なにも話せない。
だって話した内容は録音されてるってさっきアナウンスがあったし、モニタリングされてる事があるって武登が前に言ってた。
『お客様?』
どうしようもない感情に襲われて、慌てて通話を終了する。
「………」
さっきはなにをされても全く反応しなかったものが昂ってガチガチになっている。
触れてみると先端は武登の声で濡れている。
なんで?
なんで?
扱いてみてもなんか違って、うしろに指を挿れる。
自分でするの、初めてだ。
指を挿れてみてもうまく気持ちよくなれないけど、たった今聞いた武登の声を思い出すとそこがきゅっと締まった。
指を増やしてみて、武登の指を思い出す。
武登の指は俺より長くてすっとしていて、指先まで整っていてかっこよかった。
「あ…ぅ」
全然気持ちよくなれない。
なにが違う?
どうしたらいい?
涙が止まらなくて、全然気持ちよくなくて。
着替えて部屋を飛び出した。
そのまま武登の部屋まで行くけれど、仕事がまだ終わっていないから当然帰っていない。
鍵も返してしまった。
部屋の前で座り込んで武登の帰りを待つ。
寒い。
でもひとりでいるともっと寒い。
昨日このドアを出たばかりなのに、もうこのドアの前に戻って来てる。
ばかみたい。
それでも武登に触れられたい。
武登に『マサ』って呼ばれたい。
『タケ』って呼びたい…。
「……なにやってんの?」
「!」
はっと気が付くと、目の前に武登が立っている。
うとうとしちゃってた。
「タケ…」
「あーあ、こんなに冷えて。風邪ひいたらどうすんの」
座り込む俺の横にしゃがんだ武登が俺の髪をぐしゃぐしゃと撫でる。
会いたかった。
寂しかった。
涙が止まらない。
「おいで」
武登に導かれるままに部屋の中に入った。
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