暴君王子としもべ姫

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眠れなかった。 目を閉じると集の顔ばっか浮かんで、涙が止まらなくなっちゃって、一晩中泣いてた。 個室にしてよかった。 ぼんやりする頭のまま、パソコンで部屋探しをする。 とりあえず集からのお金以外の、もともとの貯金で契約できる部屋を見るけど、時期が悪いのか、俺が家賃を払っていけそうな物件なんてない。 どうしよう。 仕事は選ばなければなんでも見つかると思うから、とにかく住むところ。 うとうとしたり寝落ちたりしながらパソコンをいじっていたら夜になった。 スマホの充電が切れた。 コンセントはあるけど、充電用のケーブルなんて持ってない。 しかたなく一度ネカフェを出た。 「………」 またとぼとぼ歩いていたら、ひとりがものすごく辛くて苦しい。 誰でもいいからそばにいて欲しくて、いつものゲイバーに向かった。 「…こんばんは」 ママに挨拶をしてカウンターに座る。 いつも集のボトルでふたりで飲んでいたのを思い出して視界がまた滲む。 ビールをお願いして一口飲んだら頭がすごくふわふわする。 そういえば昨日ほとんど寝てない。 ひとりの俺に、ママが不思議そうに聞く。 「集はどうしたの?」 「………」 「恵介?」 「………」 視界がぼやけてくる。 なんとなくドアのほうを見たら、王子様とお姫様が並んで入ってきた。 しもべの入る隙間はないんだな…なんて頭に浮かんで、そのまま意識が途切れてしまった。 ◇ 「……?」 目を開けると見慣れない天井。 なんかすごくよく寝た感じ…。 室内を見回すと、集と初めて会った時に連れ込まれたホテルっぽい。 ソファに集が座ってる。 「あつむ…?」 「起きたか」 立ち上がった集がベッドに近寄って、頬に触れる。 あったかい手。 「気分どうだ?」 「大丈夫…」 俺が身体を起こすと、集が優しく支えてくれる。 「集、律希さんと一緒じゃなかった…?」 集王子と律希姫が並んでた気がする。 「知らない」 「知らないって?」 「あんなのどうでもいいだろ」 集、不機嫌だ。 「昨日、ちゃんとホテル泊まったか?」 「? ネカフェにいたけど…?」 「はあ?」 俺の答えに不機嫌が増したっぽい。 「帰ってこないからホテル代振り込んだだろーが!」 「ホテル代?」 「口座に10万振り込んだ」 「あ」 あれ、ホテル代? 別れた男になんでそんなの振り込むの? 「手切れ金じゃないの…?」 「はあ?」 また不機嫌が増した…? 「なんで別れてもいねーのに手切れ金払うんだよ」 「え? だって俺、『別れて』って言った…」 「なんで俺がお前の言う事聞かなきゃいけないの?」 はっきり言われて混乱する。 忘れてた。 見た目は王子様だけど暴君だった。 「でも…律希さんが…」 「お前、俺が言った事忘れたの?」 顎を掴まれて顔を上げさせられる。 集にまっすぐ見つめられてどうしたらいいかわからなくなる。 「『一生俺のそばにいろ。俺の言う事に逆らうな』…?」 俺が答えると、集の表情がようやく少し緩む。 「わかってんじゃねーか」 「…でも、俺、みすぼらしいしもべだから…集みたいなみんなの憧れの王子様にはつり合わない…」 つい本音が零れる。 しもべとか王子様とか、なに言ってんだって、わけわかんないだろう。 「お前ばかだろ」 頬を思いっきり抓られた。 やっぱり伝わってない。 「痛い…」 「ちょっとくらい痛いほうが効き目あるだろ」 ぐぐっと指に力が入ってさらに強く抓られる。 「お前は俺が選んだ時点で俺につり合ってんだよ」 「?」 「お前の乙女な脳みそなら、灰かぶってたやつが王子様に選ばれたらお姫様になったのはわかんだろ」 「…………」 「もっと強く抓ってやろうか」 「え、遠慮しておきます…!」 集の言った事をかみ砕いてなんとか理解すると、俺は王子様に選ばれたお姫様? え? 「なんならもっとわかりやすく言ってやる」 「…?」 今度はなに? 「初めてお前見た瞬間に運命の相手だってわかった。一生俺のそばにいろ」 「………」 え? 集ってほんとに王子様だったの? 俺が待ってた王子様は、俺を運命の相手だって言ってお城に連れて行く…と妄想し続けた、けど…。 …え!? 「だって…集は気まぐれで俺の相手してて…え?」 「反対側も抓ってやろうか」 「いえ、遠慮します…!」 集が抓っていた手を離して、今度は壊れ物にでも触れるようにそっと俺の頬を両手で包む。 「お前はどうしたいの?」 「…?」 「特別に一個だけお前の言う事なんでも聞いてやる」 「…一個…」 「今後一切ない事だから真剣に考えろ」 じっと見つめられて、その視線がすごく熱くて全然考えられない。 「お前が別れたいなら別れてやる。死ねって言うなら死んでやる」 そんな重大なお願い!? 頭が真っ白になっていく。 「死ぬ、とか…冗談だよね…?」 「お前が望むならそれにするか?」 「望まない! そんなの全然望まない…!」 …俺、ほんとにばかかも。 もしかして、集って俺の事、ずっとめちゃくちゃ愛してくれてた…? どうしよう…こんな男にここまで愛されるって、どきどきなんてもんじゃ済まない。 「お前はなにを願う?」 まっすぐな視線に捕まって、ピクリとも動けない。
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