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「また理人?」
「……うん」
「そっか」
俺と理人の湯浅家と隣同士の村原家、直生の部屋が俺の避難所。
現在高三の理人、高一の俺、中三の直生は幼馴染。
でも理人は俺とも直生とも、今はもうあまり仲良くする事はない。
俺は一個上なのに年下の直生に甘えてばかり。
兄の理人はかっこよくて頭がよくて運動もできて…と色々揃ったイケメン。
弟の俺は地味顔に平均点な頭脳に平均的な身体能力、これといって特徴のない凡人…でも両親も平凡だから理人が生まれた時から特別なんだと思う。
直生もまた理人とは違うタイプだけれどかっこよくて頭もいい。
運動はちょっと苦手らしいけど、それでも平均くらいにはできる。
そして直生が理人と決定的に違う部分は、俺に接する態度。
とにかく優しい。
まあ、直生は誰にでも優しいんだけど。
だからすごくモテる。
もしかしたらモテ具合を比べたら直生のほうが理人より上かもしれない。
でも直生は今まで誰から告白されても頷いていない。
告白されると困った顔で報告してきて、断って相手を傷付けたと懺悔する…なぜか俺に。
「ココアいれてきたから飲んで」
「…ありがと」
「ううん。俺のほうこそ、頼ってくれてありがとう」
「……」
理人も昔は優しかった。
幼い頃、『理人と結婚する』と言った俺に、理人は喜んで指切りをして、そっと優しいキスをくれた。
触れた唇はふわふわだったのをまだ覚えている。
俺の初キス。
優しい優しい理人が大好きで、いつでもくっついていた。
中学まで同じ学校に通ったけれど、高校は理人と同じ学校には行けなかった。
理人が、とても俺には入る事のできない、レベルの高い学校に進学してしまったから。
まさか俺を避けているのかと思ったら、本当にそうみたいだった。
いや、避けられていたのはその前からだった…か。
それから、両親が共働きで遅くまでいないのをいい事に理人は学校の“オトモダチ”を部屋に連れ込むようになった。
その度に俺は直生のところに逃げ込む。
直生は俺を優しく受け入れてくれる。
…理人だって、あんなに優しかったのに。
「……」
いや、優しくない理人も好きだ。
どんな理人でも好きなのに、“好き”と思う度に心が苦しい。
『介は可愛いな。介にそっくりな顔に生まれたかった。そうしたら俺と介でひとつみたいだったのに』
理人は自分の顔が嫌いで、俺の、誰が見ても地味にしか見えない顔を好きだといつも言っていた。
俺には理解できなかった。
だって俺は綺麗な理人の見た目が羨ましかったから。
でも人は自分に無いものを求める生き物のようで、俺が理人を羨むように…いや、たぶんそれ以上に理人は俺を羨んだ。
もしかしたら親と似ている俺の顔を羨んでいたのかもしれないと思ったけど、真実は理人しか知らない。
「……どう?」
「え?」
顔を上げると直生の真剣な顔。
「ごめん、なに?」
考え事に夢中で聞いてなかった。
聞き返すと、直生がゆっくり唇を開く。
「『俺はどう?』って聞いたの」
「…え?」
どう…ってなにが?
もう一度聞き返してしまう。
直生は嫌な顔なんてしない。
「俺、もう理人と同じくらいの背だよ」
「うん」
ぐんぐん身長が伸びて、あっという間に俺を抜かした。
中三だからまだ伸びるだろう。
俺もきっとまだ伸びるはず…去年から身長変わってないけど。
「頭と運動神経は…理人には敵わない。特に運動」
「理人が特別よ過ぎるんだよ」
これは理人がおかしい。
しっかり勉強したり普段から身体動かしたりしてるわけでもないのにできるのはおかし過ぎる。
「でも介を抱き締められるよ」
「……」
え?
「こっち来てみて」
「あ…」
腕を引かれて直生の胸に引き寄せられる。
優しいにおいが俺を包む。
「どう?」
「どう、って…」
どきどきし過ぎて感想なんて……でも俺以上に直生の心臓も速く脈打ってる。
なんとなくその鼓動に耳を傾ける。
「俺まだ中三だし、介の一個下なのはいつまでも変わらない」
「うん…」
「でも本気だから」
「……」
「本気で介だけだから」
「…直生?」
直生の顔を見上げようとしたけど、ぎゅっと強く抱き締められて顔を上げられなかった。
顔が熱い。
なにこれ。
「俺は本気で介が好き」
蕩けそうな響きに直生の背にそっと腕を伸ばそうとした。
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