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靖史の幸せの基準がすごく低いことがわかった。
俺がちょっとなにか言うだけで幸せそうに微笑む。
今まで気にしたこともなかったけれど、よく見ていると、汗を拭ってやっても、俺と同じペットボトルから水を飲むのでさえすごく幸せそうだ。
「最近どうしたの?」
「なにが?」
「俺のこと、すごく見てる」
「……見てるんじゃない。観察だ」
「嬉しいな」
観察でも嬉しいのか…変なやつ。
「観察日記でもつけるか」
「マジで!? 嬉しいな。そんなに俺に興味持ってくれてるんだ」
「興味を持たれるだけでそんなに幸せか…じゃあ年中幸せだろ。みんな靖史に興味がある」
特に女。
俺の言葉に靖史が今度は不満そうにする。
「潤哉に興味を持ってもらえるのが幸せなんだよ。他人に無関心なだけじゃなくて、恋人にも興味持たない潤哉が俺を観察しようって思ってくれたんだから。そういうの、特別って言うんだよ?」
「……」
…特別…。
「長かったなぁ…二年かかった」
「? 待ってたのか?」
「当たり前じゃん。ずっと潤哉に俺を見て欲しいって思ってたよ」
「ふーん…」
知らなかった。
「『ふーん』じゃない! 俺には重要なことなんだ」
「そうか」
「そうなの。俺にとって潤哉が特別なんだから、俺だって潤哉の特別になりたいんだよ」
よくわからないけど、靖史にとって俺はある程度は大きい存在だったのか。
じっと見ていたら、靖史の瞳の奥に熱が灯る。
「その目、すごくやらしい…もう一回しよ」
「いいけど…」
嫌じゃないし、俺もちょっとまたそういう気分になってた。
「すぐいいって言ってくれるの珍しいね。素直な潤哉も可愛い」
「素直…ではないだろ」
「そういうことにしておく」
肌にキスが落ちてくる。
俺以上に俺の弱い場所を知っている靖史は、そこをわざと外す。
俺が焦れてねだってもまだ微妙に違うところに触れる。
「っそういう触り方、すんな…」
「じゃあどう触って欲しいの?」
こんな聞かれ方をするのは初めてだ。
面倒くさいと思うのに、なぜか身体が熱くなる。
言葉を出すより前に腰が揺れてしまう。
「焦らされるの好きそうだよ」
「ちがう…はやく」
「早く、なに?」
いいところを避ける動きにおかしいくらい息が上がってくる。
早く触って欲しい。
ぐちゃぐちゃにして欲しくて全身が疼く。
靖史の頬を両手で包み、唇を重ねる。
「やすふみの、ほしい…」
「……ほんと、今日の潤哉どうしたの? 可愛過ぎて頭おかしくなりそう」
「―――っ!」
秘蕾へ宛がわれた昂りが一気に奥まで滑り込む。
頭の中が真っ白になって、快感に呑まれた。
気持ちいいのが終わらなくてすぐに次の波が押し寄せる。
「出さないでイッたんだ?」
「あ、だめ…うごくな…! あっ…あ…!」
欲に突き動かされるように靖史が俺の腰を掴む。
奥の奥まで穿たれて、また波が俺を呑み込んだ。
止まない快感でおかしくなる。
靖史の背にぎゅっとしがみ付くと、靖史は微笑む。
「もっと潤哉を俺に刻み付けて」
「ぁあっ!」
「ねえ、もっと爪立てて」
「そこやめ…っ、あ、あ!」
言われていることがわからなくて、ただ追い詰められるまま、靖史の背にしがみ付く手に力をこめる。
弱い場所を繰り返し突かれてまた達する。
苦しくて熱くて気持ちよくて、もうなにも考えられない。
俺が何度イッたかわからないくらいイッたところで靖史も果てた。
荒い呼吸が耳に響く。
「愛してる、潤哉…。誰よりも、なによりも愛してる」
重たい愛情で俺を求めて、ずっと手応えがなかったのに、それでも求め続けて。
おかしなやつ。
………靖史が気になる、なんて。
こんなの俺じゃないみたいだ。
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