32人が本棚に入れています
本棚に追加
「……紘一」
「なに」
「なにって…」
さっきから、撫でるようにゆっくりゆっくり動いてばかり。
「これじゃイけない。紘一だってイけないだろ」
「………」
「どうした?」
頬に触れると、その手を握られる。指先が冷たい。
「……壊しそうで」
「は?」
「なんか……怖い」
「………」
これ、紘一? 紘一の口から出た言葉?
でも、不安そうな瞳で俺を見るのは確かに紘一で。
「大丈夫だよ」
そっとその身体を抱き締める。さっきからずっと恐る恐る触れてくるのは、怖かったのか。繋がった身体よりも、心が深く一つになっているように感じる。
「壊れたりしない」
「……そうかな」
「そうだよ。いつも容赦なくガンガンやってるくせに、今更なに言ってんだよ」
笑って見せると、紘一はくしゃくしゃっと泣き出しそうに表情を歪める。冗談のつもりだったのにうまくいかなかったようだ。
「それは……ごめん」
また謝った。今日の紘一は紘一じゃない。
「そうじゃなくて! いつもみたいにして、って言ってんの!」
「………」
渋い顔をしている。悩んだような様子の後、やっぱりゆっくりゆっくり動くので、笑ってしまう。
「……笑うなよ」
「だって……ほんとに紘一?」
「……自分でもわからない。こんな俺、知らない」
紘一自身戸惑っているようで、どうしたらいいかわからないという顔をしている。両手を伸ばし、紘一の頬を包んで顔を引き寄せ、口付けて抱き締める。
「大丈夫だよ、紘一」
「そうかな」
「うん」
「本当に?」
「本当に」
ちょっとずつ、いつものように動く紘一に快感が流れ込んでくる。俺の目尻を指でなぞり、キスをくれる。
「…郁也、泣いてるって言ってた」
「…?」
「俺、郁也を泣かせてばかりだったのかな」
「そんなことないよ」
また表情を歪める紘一。
「……いっぱいごめん、郁也」
「大丈夫だよ、大丈夫…」
頭を撫でると気持ちよさそうにする姿が可愛い。
こんな風に今更大切にされたら、どうしたらいいかわからない。でも、それが紘一の心なら受け止めたい。
どんな紘一も好きだから。
END
最初のコメントを投稿しよう!