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「……好きだ……ずっと達哉が好きだった」
耳に吹き込まれた囁きに一瞬時が止まる。なにかを考える前に逃げようとするけれど簡単に捕まり、また腕の中に閉じ込められる。
「……藤亜?」
好きってなに? そんなこと、一度も聞いたことない。
「……誰としても同じだなんて、そんなはずないんだ……」
頬に触れる濡れた感覚に藤亜の顔を覗き込むと、瞳いっぱいに溜まった涙が零れ落ちている。
「小学生の頃から、ずっと達哉だけが好きだった」
せつない告白になにを言ったらいいかわからず口を噤み、それに対して藤亜の表情がますます歪む。俺の唇を親指で何度もなぞり、また涙を落とす。
「……こんな形で達哉を抱いた自分が憎い……」
……「好き」はやっぱり怖い。自分の行動を憎んでしまうこともあるなんて、怖すぎる。俺はそんな恐ろしいものとは向き合えない。
「ごめん……藤亜の気持ちには応えられない」
逃げないと。怖いことから、「好き」から、考えることから、逃げないと。もう一度藤亜の腕の中から出ようとしてやっぱり捕まった。
「逃げるつもりなら追いかけるからな」
その言葉にどきりとした。その強さはどこから来るんだろう。拒絶されても折れない強さはなんなのだろう。
「どうしてそんなに強くいられるの? 怖くないの?」
俺は怖い。すべてが怖い。
「達哉を失うことのほうが怖い」
俺は自分が思っている以上に弱いのかもしれない。こんな風に誰かを求めたり、求め続けることをしてこなかった。ずっと逃げの姿勢でいた。
「達哉の全部を受け入れたい。誰でもいいなんて考えで生きないで欲しい……セックスに愛があってもなくても同じだなんて思わないで欲しい」
抱きしめられる腕の強さと言葉の温かさに、自然と涙が溢れて伝った。
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