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「達哉、ほら、貸せ」
「うん」
新年になり藤亜と初詣に来た。あれから三か月、俺達は付き合っている。おみくじを梅の木の枝に結んでくれる藤亜をじっと見つめる。
「お守りとか買うか?」
「買わない」
「じゃあ俺に買って。恋愛成就」
人の流れに沿って歩き出すと藤亜がそんなことを言う。
「成就してないの?」
「してんの?」
逆に聞き返されてしまって頬が熱くなる。それはつまり、俺が藤亜を好きかどうかという質問で。
「……してる、と思う」
「俺が教授なら減点してるな」
「ひどい」
「ひどいのはどっちだ」
そんなことを言いながらも優しく微笑みかけられてどきりとする。つい目を逸らしてしまうのは、まだ慣れないから。
「どうなの? 成就してんの?」
「……」
ずるい。俺が黙っていると藤亜が神妙な顔をする。
「やっぱ恋愛成就買って」
「…………き、だよ」
「なに?」
「っ……好きだよ!」
恥ずかしくて顔から火が出そうだけれど、勢いのまま言うと藤亜が嬉しそうに破顔する。
「好き」と言うのは苦手だけれど、藤亜が喜んでくれるならなるべく言いたい。
「じゃあ恋愛成就買わなくていいや」
「……」
そっと手を握られ、更に恥ずかしくて周囲を見回してしまう。
「誰に見られたっていいじゃん。俺の自慢の恋人」
「……っ」
こんな俺がそんなことを言われる日が来るなんて夢にも思わなかった。俯いて、にやける口元をマフラーで隠す。
「早く達哉の部屋に帰ろう? いちゃいちゃしたい」
「いちゃいちゃって……」
なんだそれ、めちゃくちゃ恥ずかしい。なるべくのんびり帰りたいような、急いで帰りたいような、複雑な気持ちになった自分にも恥ずかしくなる。
キスは気持ちいい。抱きしめられるのは落ち着く。浅はかでいたい考えはなかなか抜けないけれど、その度に正してくれる人がいる。俺を導いてくれる大切な存在がいる。
愛のあるセックスしかしたくない。藤亜としか、したくない。
すれ違った人とぶつかりそうになった俺の手を藤亜が引いてくれて、距離が近くなる。少し高い位置にある顔を見上げると、とても幸せそうだ。
「やっぱり恋愛成就、買ってあげる」
「つまり成就してないってことか?」
「ううん。藤亜の恋がもっと成就するように」
自分で言っておいて「もっと成就」がなんだかわからないけれど、たくさん幸せになって欲しいから。そう言うと藤亜は目を見開いて、それからこれ以上ないくらい優しく微笑んだ。
「達哉のその気持ちが嬉しいから、お守りはいらない」
「でも」
「それに、俺をたくさん幸せにしてくれるのはお守りじゃなくて達哉だろ?」
「……」
ゆっくり頷いて視線を合わせる。今すぐキスしたいけれど、帰るまでお預け。繋いだ手にぎゅっと力をこめた。
END
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