マテ。

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マテ。

高校生・年下×年上・美形×平凡・攻め視点 大好きな遥先輩(受け)に毎回マテを言われる望夢(攻め)の話です。 ***** 「っ、マテ!」 「………」 (はるか)先輩にキスをしようとしたらいつもの言葉を言われた。 わんこ扱いされてるんだろうか。 でもおとなしく待ってしまう。 そしていつも通り目を閉じて深呼吸をした遥先輩が頭を撫でてくれたらマテはおしまい。 唇が触れるとそれだけでぽーっとした顔をする遥先輩がめちゃくちゃ可愛い。 その気持ちをそのまま言うと。 「望夢(のぞむ)って、変」 「変でいい。遥先輩にならなに言われてもいい。もっと声聞かせて」 俺が遥先輩の頬を両手で包んでまっすぐ見つめながら求めると、遥先輩はちょっと視線を逸らす。 「も一回キスしていい?」 「いい、けど…」 ヨシをもらったので、顔を寄せると。 「マテ!」 やっぱりマテがきた。 やっぱり先輩って俺の事、わんこだと思ってるのかも。 ◇ 「望夢、なんで北村(きたむら)先輩なの?」 また言ってる。 中学からの友人の(はやと)はいつもこれを聞く。 これ聞かないと生きてらんないのかって思う。 「だぁって遥先輩、めちゃくちゃ可愛いんだもん」 「いや…望夢? それ欲目だから」 ちょっと呆れた顔。 その表情の意味がわからない。 「なんで?」 「北村先輩って、なんて言うか…さ、地味じゃん?」 「全然! あの可愛さがわかんないの、お前くらいだよ」 「いやいやいや、俺の感覚のほうが一般的だから。それにお前、顔だけはいいじゃん?」 隼の感覚、全然一般的じゃない。 遥先輩のあの可愛さを地味とか言っちゃえるっておかしい。 「俺の顔なんてどうでもいいよ。遥先輩が可愛いからそれでいいの。てか隼いいよな、遥先輩と“は”が被ってて。俺も遥先輩とお揃いがいい」 「そういう、性格に難ありだけど…それを知らない女子からの視線とか感じない?」 「遥先輩の視線、もっと感じたい」 ちょっと恥ずかしそうに俺を見つめ返してくれる視線だけで骨まで溶ける。 「でもさ、隼、聞いて!」 「…なんだよ」 もう聞きたくないって顔してるけど無視。 「昨日もやっぱり『マテ』が出て。キスとか色々しようとすると必ず出るんだけど、なんでだと思う!?」 それでも聞いてくれるから隼って優しい。 感覚はおかしいけど。 「そりゃ、お前…」 「なに?」 「犬扱いされてんだろ」 直球な言葉にちょっと傷付く。 でもそれしかないよな。 こういうのはっきり言ってくれるから隼も好き。 遥先輩と比べたら全然好きの度合いが違うけど。 「やっぱりそうかな」 「お前二個下だし、可愛いわんこだと思ってんじゃね?」 「そうだよなー…可愛いのは遥先輩なのに」 ほんとに遥先輩可愛い。 俺だけの遥先輩。 「そもそも恋人だと思われてなかったりして」 「え!?」 なにそれ。 想像もした事なかった。 「だって望夢、お前、好き好き好きで押し切って付き合ってくれるようになったって言ってたじゃん」 「うん。遥先輩、最初に告白した時には付き合えないって言ってたけど、押しに弱そうだから押しまくってみた」 「実は付き合ってなかったりして。望夢にとって北村先輩は可愛い恋人でも、北村先輩にとってお前はただの可愛いわんこな後輩でしかなかったり」 「………」 まさか、そんな事ないはず。 キスだってするしえっちもする。 あの真面目な遥先輩が恋人以外とそんな事するとは思えない。 絶対付き合ってるはず…はず。 「隼!」 「な、なに」 「そういうのって、本人に聞いてもいいもんなのかな!?」 「なにを?」 「だから、その…本当に恋人なのかどうかって…」 ちょっと声が小さくなってしまう。 たぶん、俺自身、確信が持てないんだと思う。 あの可愛くて素敵な遥先輩が俺なんかを本気で相手にしてくれるはずがないってちょっと思ってる。 遥先輩の気持ちを疑うなんてしたくないけど、でも自信ない。 「お前が聞きたいなら聞けば? そのまま振られる可能性もあるけど」 「え、やだ! じゃあ聞きたくない!」 「じゃあずっと犬扱いされてろ」 俺を置いてさっさと教室に入ってしまう隼を追いかけようとしたら知らない女子に声をかけられた。 「なに?」 連絡先交換しない?って言われた。 でも交換する意味がわからないから断ったら、その女子の向こうに遥先輩の姿が見える。 目が合ったのにスッと視線を逸らされた。 どうしたんだろう。 追いかけようとしたけど、予鈴が鳴ってしまったので仕方なく俺も教室に入った。 ◇ 「遥先輩、今日うち来ない?」 「うん、あ…いや、やっぱ」 「都合悪い?」 「えっと…」 放課後、遥先輩と一緒に駅まで歩きながら聞くと、先輩の様子がおかしい。 「無理にとは言わないから。遥先輩が嫌なら…」 残念だけど、と続けようとしたら。 「嫌じゃない! 嫌じゃ、ないんだけど…」 「けど?」 「……うん、行く。俺も望夢に話あるし」 「…?」 なんか思い詰めた顔。 なにかあったのかな…と考えたらかなり不安になった。 もし別れ話だったらどうしよう。 どうしよう。 なんだかなにを話したらいいか急にわからなくなって電車の中でなにも話しかけられなかった。 遥先輩も思い詰めた顔でなにか考え込んでいた。 「………」 「………」 俺の部屋でふたりで向かい合って座るけど、なぜか空気が重たい。 この空気、やっぱ別れ話? 「…望夢」 「は、はいっ!」 「望夢はなんで俺なの?」 真剣な顔。 話がどう繋がっていくかわからないから慎重に答えないと。 「え、大好きだから」 「俺のどこが好きなの?」 「可愛いとこも真面目なとこも全部」 慎重に答えたつもりだけどいつも通りになっちゃった。 でもこういうのは正直に答えないと。 「……俺、可愛くないよ」 「なに言ってんの? 先輩めちゃくちゃ可愛いよ?」 「みんな俺と望夢が一緒にいるとこ見て、なんかおかしいって絶対思ってるよ」 「なんで?」 「だって望夢はかっこいいけど…それに比べて俺、平凡で地味で暗いし…しかも男だし」 遥先輩はなんで自分にそんな自信がないんだろう。 すごく素敵な人だって事になんで気付かないんだろう。 「俺、遥先輩ならなんでも好き」 「なんでもって?」 「遥先輩がそのまま好きって事」 それが俺の気持ち。 遥先輩が男とか女とかどうでもいい。 遥先輩ならなんでもいい。 それに遥先輩は平凡じゃないし地味じゃないし暗くない。 先輩が勝手に自分の事、そう思い込んでるだけ。 「……でも」 「実は俺も遥先輩に聞きたい事あって…」 なんとなく聞けそうな感じだったから切り出す。 「なに?」 「……」 切り出したはいいけど聞いていいのかわかんない。 でも先輩は俺の次の言葉を待っている。 「…先輩、なんでいつも『マテ』って言うの?」 「……」 「ていうか、俺、先輩の恋人だよね…?」 なんか言葉にしたらめちゃくちゃ不安になってきた。 視界が滲んでくる。 お願い、恋人だって言って。 「うん…? 俺達、付き合ってるんでしょ?」 俺の心の内に気付かない先輩が不思議そうに言う。 一気に力が抜けた。 「…よかった…」 「え? どういう事?」 「いや、隼が…遥先輩に恋人だと思われてないんじゃない?みたいに言うから、不安で…」 ちょっときょとんとしたあと、笑い出す遥先輩がやっぱり可愛い。 「付き合ってって言い続けてたの望夢のほうじゃん」 「押し切ったはいいけど、遥先輩にとって俺は単なる可愛い後輩なのかなって」 「そんな事ないよ。ちゃんと好き」 あ、嬉しい。 優しい笑顔にどきどきする。 キスしたくて顔を近付けると。 「マテ」 「………」 そうだ、こっちを聞いてなかった。 「先輩…俺の事、犬だと思ってる?」 「思ってないよ、ほんとに」 「じゃあなんでいっつも『マテ』って言うの?」 「それは…」 もごもごする遥先輩。 顔を背けようとするので、頬を包んでそれを許さないでいると遥先輩が真っ赤になった。 「だって…キスする時とか、あの…そういう時とか、いつも可愛い望夢が急に男の顔になるから…その」 またもごもご。 「男の顔?」 「…うん。急にかっこよくなるから、どきどきして心臓壊れそうで…」 「だから『マテ』?」 「……」 遥先輩が頷く。 可愛い! 「じゃあ、『マテ』って言う時は遥先輩がどきどきしてる時?」 「…どきどきじゃ済まないくらい心臓大暴れしてるかも」 「……」 すっごい嬉しい。 そんなに俺の事意識してくれてるなんて思わなかった。 「ごめんね? 犬扱いなんてしてないから…」 「うん。わかった。これからもマテ言って」 「?」 「そしたらもっとどきどきさせるから」 不意打ちでサッとキスをすると遥先輩が真っ赤になって自分の心臓を押さえる。 「どきどきしてる?」 「…うん」 「触っていい?」 遥先輩のネクタイを緩めてシャツを乱す。 左胸に直接触れると、確かに心臓がすごいどくどくしてる。 「だめ…望夢…」 「『マテ』じゃないの?」 「だって…また犬扱いしてると思われたら嫌だし…」 「思わないよ」 遥先輩の肌にキスを落としていくとその度に身体が小さく震える。 肌を暴いていくと、真っ赤になって俺を受け入れてくれる遥先輩。 絶対俺のほうがどきどきしてる。 「挿れていい…?」 「…ん」 涙でゆらめく瞳が綺麗。 昂りを奥まった部分に宛がって腰を進めたら。 「マテ。ほんとにマテ!」 「え、痛い!? ごめん、先輩!」 かなり慌てた様子の遥先輩に動きを止める。 謝ってすぐ抜こうとしたらぎゅっとしがみ付かれた。 「ちが…っ、そうじゃなくて…」 「? じゃあなに?」 「…そういう顔、俺以外に見せないでって、言いたくて…」 「………」 可愛い。 全世界の人に、この可愛い人は俺の恋人なんだって自慢して歩きたい。 「そういう顔って、どんな顔?」 「…かっこいい、男の顔」 初めて誰かに『かっこいい』って言われて嬉しいと思った。 キスしようとしたら、遥先輩からキスしてくれる。 「遥先輩…」 先輩からキスしてくれたの、初めてだ。 嬉しい。 すごく嬉しい。 「好きだよ、ちゃんと望夢が好き」 「ありがと、先輩」 腰を進めると遥先輩がちょっとびくっとして俺を全部受け止めてくれた。 先輩が俺にどきどきしなくなったら困るから、いつまでもずっと『マテ』が出てくるように頑張ろう。 END
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